第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-8] ポスター:基礎研究 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-8-3] 小脳に対する交流電気刺激が両手の運動リズムに及ぼす影響

在原 菜々花1, 鈴木 誠1,2, 磯 直樹1,2, 斎藤 和夫2, 松本 卓也2 (1.東京家政大学大学院人間生活学総合研究科, 2.東京家政大学健康科学部)

【はじめに】
人は両手をリズミックに運動させて,タイピング,洗顔,料理などの様々な生活活動を行っている.リズミックな運動に関する過去の研究では,運動のリズム生成に小脳や頸髄などが関与していることが知られている(Panら, 2020).また,小脳における低周期と高周期の神経活動が一次運動野の活動を調節し(Dugué, 2009),リズミックな運動の実行に寄与していると考えられている.近年,脳を交流電気でリズミックに刺激した場合に,脳波のパワースペクトルが刺激周波数に同調することが示され(Suzukiら, 2022),リズミックな運動を改善する新しいツールとして期待されている.しかしこれまでの研究では,小脳に対する交流電気刺激が両手の運動リズムにどのような影響を及ぼすのか明らかになっていない.そこで本研究では,小脳に対する交流電気刺激が両手の運動リズムに及ぼす影響を検証することを目的とした.
【方法】
右利きの健常成人を対象とした.本研究は研究倫理委員会によって承認され,全ての対象者にはあらかじめ実験内容に関する十分な説明を行い,本実験への参加についての同意を文書にて得た.リズミック運動課題では,右示指は0.35 Hz,左示指は0.70 Hzの2種類のメトロノーム音に合わせて15度の範囲で外転運動を約7分間行うよう,対象者に教示した.また,リズミック運動課題中に右小脳に対してpeak-to-peak 2 mAの刺激強度で,5 Hzの交流電気刺激(低周期条件),60 Hzの交流電気刺激(高周期条件),疑似的な交流電気刺激(疑似刺激条件)をランダムな順序で1日以上の間隔を空けて行った.各運動試行における示指外転の最大角度と15度の運動範囲との差分を振幅逸脱度の指標とした.また,各運動試行における示指外転の最大角度時点の時間とメトローム音(右手0.35 Hz,左手0.70 Hz)のタイミングとの差分をリズム逸脱度の指標とした.これらの指標を低周期条件,高周期条件,疑似刺激条件で比較することにより,小脳に対する交流電気刺激が両手の運動リズムに及ぼす影響を検討した.
【結果】
振幅逸脱度については,左右示指ともに3条件に著明な差を認めなかった(右示指:低周波条件平均1.75度,高周波条件平均2.30度,疑似刺激平均1.51度;左示指:低周波条件平均1.65度,高周波条件平均2.15度,疑似刺激平均1.67度).リズム逸脱度については,左右示指ともに疑似刺激条件よりも低周期条件および高周期条件の方が小さかった(右示指:低周波条件平均713.34 ms,高周波条件平均616.18 ms,疑似刺激平均723.32 ms;左示指:低周波条件平均78.98 ms,高周波条件平均102.34 ms,疑似刺激平均111.80 ms).
【考察】
右小脳に対する低周期および高周期の交流電気によって両示指運動に関するリズム逸脱度は減少したが,振幅逸脱度は著明な変化を認めなかった.これらの結果より,小脳に対する低周期および高周期の交流電気刺激が両手の運動リズムに影響を及ぼすことが示唆された.右小脳に対する交流電気刺激が両示指の運動リズムに影響を及ぼした原因として,交流電気刺激に伴う右小脳神経の発火が両側の一次運動野に影響を及ぼした可能性や,交流電気刺激が両半球に伝搬した可能性が考えられる.