第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

基礎研究

[PP-8] ポスター:基礎研究 8

2023年11月11日(土) 11:10 〜 12:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-8-4] 液体トロミ剤を利用したパンの手元調理とその物性変化

神作 一実1, 小島 好2 (1.文京学院大学 保健医療科学研究科, 2.訪問看護ステーション ベビーノ)

【はじめに・目的】
パンは子どもから高齢者まで,日常的に食べている食品である.しかし,パンはグルテンや水分の含有量等により物性が変化する食品である.そのため,十分な口腔機能が獲得されていない場合には,処理の難しい食品であると言われている.一方,液体はムセやすいために,臨床場面でもとろみ剤が用いられている.しかし,一般的なとろみ剤は計量スプーンで計量すること,液体に溶かしてからとろみがつくまでに時間の経過が必要であることなどから,一定のテクスチャーのとろみを提供することが難しい.そこで,比較的簡便な方法で安全にパンを食べられる方法を模索するために,レディーメイドのとろみ剤(以下,「液体とろみ剤」とする)を日常的に食べているさまざまなパンに添加することによりパンの食品物性がどのように変化するかを分析した.
【方法】
1)被験食品:小児から高齢者が喫食することを想定して,カットパン,蒸しパン,スナックパン,パンケーキ,食パン,ロールパンを用いた.これらの食品に対して,何も添加していない状態および液体とろみ剤0.5mLをシリンジで計量し添加した状態の2条件で物性を測定した.
2)測定機器:計測は,山電製クリープメータ(RE2-33005B・CA3305) ,くさび型(1mm×10mm)のプランジャーを用いて,応力および破断総エネルギーを測定した.各食品は直径40mm×高さ15mmに成型したものを用いた.
【結果】
1)被験食品の最大応力:2条件の最大応力(Pa)は以下の通りだった.カットパン(液体とろみ剤添加なし:1.32×10^6,液体とろみ剤添加あり:0.97 ×10^6,p=0.008),蒸しパン(添加なし:0.83 ×10^6,添加あり:0.21 ×10^6,p=0.008),スナックパン(添加なし:0.21 ×10^6,添加あり:0.83 ×10^6,p=0.008),パンケーキ(添加なし:1.22×10^6,添加あり:0.48 ×10^6,p=0.008),食パン(添加なし:1.29×10^6,添加あり:0.66 ×10^6,p=0.008),ロールパン(添加なし:1.13×10^6,添加あり:1.30 ×10^6,p=0.008)であった.全てのパンにおいて,液体とろみ剤を添加することにより,最大応力が有意に低下した.
2)被験食品の破断総エネルギー(J/m^3):カットパン(添加なし:644×10^3,添加あり:151×10^3,p=0.008),蒸しパン(添加なし:89×10^3,添加あり:41×10^3,p=0.008),スナックパン(添加なし:509×10^3,添加あり:111×10^3,p=0.008),パンケーキ(添加なし:284×10^3,添加あり:107×10^3,p=0.008),ロールパン(添加なし:156×10^3,添加あり:226×10^3,ns.),食パン(添加なし:179×10^3,添加あり:206×10^3,ns.)であった.ロールパン,食パン以外は,破断総エネルギーは有意に低下した.
【考察】
多くのパンについて液体とろみ剤を添加することにより,最大応力および破断総エネルギーを低下させることができ,弾力のあるパンを簡単な手元調理によって比較的食べやすい物性に変化させられることが示された.一方,ロールパンと食パンについては,破断総エネルギーは有意に低下するとは言えなかった.今回,レディーメイドの液体トロミ剤をパンに添加するという,簡便な方法でもパンの物性を変化させられることが示された.パンは手軽な食品ではあるものの,高い口腔機能が必要な食品であり,窒息事故のリスクも高い.今回の結果を踏まえ,今後もより安全で楽しくおいしい食事の支援を模索していきたい.