第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-9] ポスター:基礎研究 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-9-1] 折り紙 および Purdue pegbord test 実施時の前頭前野の脳血流変化の特徴

亀井 大作 (四條畷学園大学リハビリテーション学部)

【はじめに】折り紙は注意機能,記憶機能,色彩認知,空間認知といった認知的側面と両手の協調性,巧緻動作,感覚などの身体的側面の両面の要素を含み (Kostorz 2020, Uomini 2017, Zhao 2020),古くからの折り方の知見や幼少期からの慣れ親しみもあり,一人でも複数人でも適用が可能である (Tenbrink 2015)など,訓練課題として有用である.そのため,作業療法の訓練課題やレクリエーションの課題としても一般的に利用される.一方,運動学的あるいは生理学的側面から折り紙の心身的な効果を検証した報告は少ない.そこで,本研究は近赤外線分光法(Near infrared spectroscopy, NIRS)を用いて,折り方の構成的な特徴に着目して,脳血流動態を調査することを目的とした.巧緻動作の検査および比較課題を目的として,Purdue Pegboard Test (PPT)も行うこととした.
【方法】本研究は四條畷学園大学リハビリテーション学部倫理委員会の承認を受け(番号:22-4),参加者への十分な倫理的配慮のもとで行われた.参加者は右利きの若年健常者を公募し,13名が参加した.参加者の属性は年齢が20.4±0.5歳であり.既往歴と現病歴や習い事など聞き取りと日本語版フランダース利き手検査(8.5±1.1点)を行い,全員が本研究に参加可能であると判断した.課題は巧緻性検査のPPTと3種類の折り紙課題(カニ,ブタ,テーブル)を行った.折り紙課題は参加者全員が初めて折るものであった.これらの課題は平面折りと立体折りの視点から工程分けがされた.PPT,折り紙ともに顎台に顎を置いた状態で実施した.折り方を書いた紙は顔正面位置にを固定し,いつでも見えるようにした.紙の色は水色のみを使用した.手の位置は机の上を基本としたが肘をついて前腕を空中に浮かして折ることも可とした.NIRSの測定時はポータブルの2chのNIRS機器(アステム社, ブレインアクティビティモニター Hb133)を用いて,前頭前野(国際10-20法のFp1,Fp2とした)の酸素化ヘモグロビン濃度の変化量(Oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン濃度の変化量(Deoxy-Hb)および3軸加速度を測定した.サンプリングレートは10Hzとした.NIRSの各指標(PPTの各課題,折り紙の各工程区間)の変化量は課題開始前10秒間の平均値と開始から終了(PPTは1回目の実施時の1課題ごと,折り紙は工程区間ごとに算出)までの平均値を対応のあるt検定を用いて比較した(IBM社, SPSS ver. 26.0).有意水準は0.05とした.
【結果】PPTの平均値は右手が15.0±2.3 個,左手が14.1±2.5 個,両手が11.8±2.0 個,アッセンブリーが9.4±1.8 個であった.PPT時のOxy-Hbは課題の種類,および左右の脳で差が見られた.具体的には左手と両手の実施の際に,右脳でのみ有意な増加が見られた(ベースラインと実施中の順で,左手が -0.019±0.0075 から 0.0062±0.065 mM へ,両手が -0.0041±0.068 から 0.012±0.059 mMへ増加した.ともにp<0.05).折り紙課題では有意な差が出た工程区間はなかった.
【考察】高齢者や認知症者を対象として認知検査の結果と比較した研究では,粗大動作よりも巧緻動作,片手動作よりも両手動作,単純工程よりも複雑工程の作業の方が認知的負荷が高いことが知られている(Kluger 1997).本研究では若年健常者を対象としたが,PPTについては非利き手と両手の動作中に右前頭前野の活動が利き手よりも高まっている結果となり,間接的にこの結果を支持する結果となった.一方,今回の分析手法では有意な増加は見られなかったが,分析方法の切り口をさらに工夫する手法も残されていることから引き続きの検討を進めたい.