第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-9] ポスター:基礎研究 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-9-2] 注意バイアス修正プログラムのオンラインアプリケーションの開発と信頼性・妥当性の検証

滝澤 宏和1,2, 田山 淳3, 濱口 豊太1 (1.埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科, 2.医療法人社団武蔵野会 新座病院リハビリテーション科, 3.早稲田大学人間科学学術院)

【背景】
 抑うつ・不安症状の誘因の一つとして嫌悪な刺激に対して注意が向きやすくなる注意バイアスがある. 注意バイアスは注意バイアス修正練習(Attention Bias Modification: ABM) により修正することが可能であり, 抑うつ・不安症状の軽減や症状の再燃を予防する効果があることが報告されている(Dai Q, et al. 2019). これまでに開発されたABMはPCアプリが利用され, 練習の実施には場所の制限があるなど臨床場面では使用し難いという問題点があった. そこで我々はスマートフォンやタブレット端末などで利用できるABM練習のオンラインアプリケーション(Attention Bias Online Training: ABOT) を開発した. 本研究は, ABOTの被験者間信頼性と基準関連妥当性を検証するために, 既存のPCアプリとABOTの2つを用いて実験した.
【方法】
 対象は健常成人10名とした. 基本情報として, 被験者の年齢, 性別, 利き手, BMIを聴取した. 測定項目はABMTとABOTをそれぞれ2回ずつtest-retest法(合計4回, 2日間) で実施した. 実験は個室で対象者の姿勢は椅子座位とした. 1回の試行後に5分程度の休憩を設け, 後に2回目を試行した. 課題はABMTとABOTともに同時に提示された上下の2つの画像の後に上下どちらか一方に提示されたプローブ刺激 (*) を選択する課題を128 回施行させた. プローブ刺激の提示から選択するまでの反応時間(Reaction Time: RT) を測定した. ABの実験では, 不安やうつがあると, 陰性感情の表情に注意が向いて中性の表情を選択するまでのRTが遅延する. 課題の刺激は感情的な怒り表情と中性的な表情を1つずつ含む表情ペアの写真で構成した. 取得したRTのデータのうち, 平均値から標準偏差の2倍を超えた値は外れ値として除外した. 統計解析はデータの正規性をShapilo-Wilkで確認した後に, 被験者間信頼性ならびに基準関連妥当性の検定はCronbach のα, 級内相関係数(ICC) を測定し, 有意水準は5%とした. 解析ソフトはSPSSを用いた. 対象被験者には口頭及び書面にて研究内容を説明し, 書面にて同意を得た. 本研究は研究実施施設の倫理委員会の承認を得て実施した. 本研究は文科省科学研究費若手研究の助成を得た.
【結果】
 対象被験者の女性6名, 右利きが9名, 年齢は25±1歳, BMIは20±2であった. ABMTの1回目の平均反応時間は384±92 ms, 2回目の平均反応時間は357±78 ms, ABOTの1回目平均反応時間は579±66 ms, 2回目の平均反応時間は550±54 msであった. ABMTの2回測定によるCronbach のαは0.955, ICCは0.914(p<0.001) であった. ABOTの2回測定によるCronbach のαは0.821, ICCは0.697(p=0.009) であった. ABMTとABOTそれぞれの1回目の測定によるCronbach のαは0.844, ICCは0.731(p=0.005) であった.
【考察】
 本研究の結果は, ABOTに被験者間信頼性と基準関連妥当性があることを示唆した. ABOTの2回測定によるICCはABMTに比べ低い値であったが, Cronbach のαが0.7以上は信頼性が高いとされており(対馬 2011), 被験者間信頼性は高いことが示唆された. また, ABMTとABOTの比較による基準関連妥当性も同様に高い数値を示した. このことからオンラインアプリケーションはPCアプリケーションほどの精度はないものの, 臨床で利用できる水準にあることが示唆された.