第57回日本作業療法学会

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ポスター

基礎研究

[PP-9] ポスター:基礎研究 9

2023年11月11日(土) 12:10 〜 13:10 ポスター会場 (展示棟)

[PP-9-4] 骨格筋痛による皮質脊髄路の興奮性低下に対するミラーセラピーの効果

森内 剛史1, 西 啓太2, 岡村 諒平3, 小関 弘展1, 東 登志夫1 (1.長崎大学生命医科学域(保健学系), 2.豊橋創造大学保健医療学部理学療法学科, 3.長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻)

【背景と目的】
 経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた先行研究では,骨格筋痛が皮質脊髄路(CST)の興奮性を低下させることが報告されている(Larsen et al., 2019).この中枢及び末梢神経系の可塑的変化は慢性痛への移行との関与が指摘されていることから,CSTの興奮性低下を軽減するようなアプローチの開発に関心が高まっている.ミラーセラピー(MT)は,標的部位の運動を行わずにCSTの興奮性を上昇させることができるが(Garry et al., 2005),骨格筋痛の治療としてその効果を検証した研究はこれまでない.そこで本研究では,実験的な骨格筋痛状態にした健常成人を対象に,CSTの興奮性低下と痛みに対するMTの効果について検証することを目的とした.
【方 法】
 対象は右利きの健常成人13名とし,MT群(6名)と対照群(7名)にランダムに振り分けた.すべての対象は高張食塩水(5.8% NaCl,0.2ml)を右手の第一背側骨間筋(FDI)に注入し,実験的な骨格筋痛状態にした.MT群は高張食塩水注入後に自らの左示指内外転運動を1Hzのリズムで240秒間実施した.その際,鏡に映った手の運動を観察し,右の示指で実際に内外転運動をしているような運動錯覚を誘発し,MT実施後は安静を保たせた.CSTの興奮性の評価は,両群ともに高張食塩水注入し60秒から780秒後まで10秒間隔でTMSを与え,右手のFDIから導出されたMEPを指標とした.尚,MT群に関しては,左手のFDIの筋活動が認められているタイミングでTMSを加えた.MEPは,安静時,MT介入期(注入後70-300秒),介入後①(注入後310-540秒),介入後②(注入後550-780秒)の4つの期間に区分して比較検討した.痛みの評価は,Numerical Rating Scale(NRS)を用い,両群とも高張食塩水注入後から30秒毎に口頭にて痛みの程度を確認した.MTによるCSTの興奮性と痛みの影響を探索するために,グループ(MT群・コントロール群),時間(高張食塩水注入後の経過時間)を主要因とした二元配置分散分析を行い,それぞれの影響について検討した.尚,本研究は長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会の承認を得た上で実施した.
【結 果】
 CSTの興奮性評価としてのMEPには有意な交互作用が認められ(p<0.05),事後検定にて,MT群内を比較した際に,MT介入期のMEPは安静時,介入後①,介入後②と比較し有意に増大したp<0.05).群間での比較した際に,MT介入期,介入後①において,MEPの振幅は対照群よりMT群が有意に高値を示し(p<0.01),さらに介入後②においても同様の傾向がみられた(p=0.057).痛みの評価であるNRSには,"グループ","時間"の要因にそれぞれ有意な主効果が認められた(p<0.001).NRSはMT群の方が対照群と比較して注入後60秒後から390秒後まで有意に低下していた(p<0.01).
【考 察】
 本研究の結果から,骨格筋痛に対するMTの実施は,痛みに伴うCSTの興奮性低下の軽減と痛みそのものを軽減できる可能性が示唆された.CSTの興奮性に関しては,MT中のCSTの興奮性増大が,骨格筋痛による興奮性低下を相殺した結果,対照群との有意差が認められた可能性が推察される.また,痛みに対しては.患部以外の部位で運動を行うことで疼痛が抑制されるExercise-Induced Hypoalgesia(EIH)(Naugle et al., 2012)のような疼痛抑制が働いた結果,早期からの疼痛軽減効果が認められた可能性が考えられる.さらに,CSTの興奮性への効果はMT実施後も持続する可能性があることから,MTは骨格筋痛の軽減と痛みに伴う中枢神経系の可塑的な変化を予防する有効な介入手段となる可能性があることが示唆された.