第57回日本作業療法学会

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管理運営

[PQ-1] ポスター:管理運営 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PQ-1-4] コロナ禍による30日間の精神科入院作業療法中止は,統合失調症の陰性症状に影響はあるか?

大内 泰 (医療法人ほがらか会 もとだて病院リハビリテーション科)

【序論】
 現在,新型コロナウイルス感染拡大の影響により,院内感染対策委員会と協議しながら入院精神科作業療法(以下作業療法とする)を行っている.当院作業療法は集団で行っていることが多い.感染対策として対人距離の確保や活動中の換気,パーティション設置などの対応を行っている
 令和3年夏に当院療養病棟では感染クラスターが発生した.委員会との協議により感染が収束するまでの間,作業療法は制限され中止となった.結果として30日間作業療法は中止となった.制限終了後,スタッフから,統合失調症の方の活動中の様子として,なんとなく反応が鈍い,表情が乏しい,声が出ていないような気がするという情報共有がされた.感情鈍麻や活動性の低下,自閉などの陰性症状が感じられるということである.
 療養病棟の作業療法はスポーツや軽作業,机上での創作活動等を行い,統合失調症の方へは主に陰性症状の改善を目的として行っている.しかし,実際活動をしなかった場合陰性症状は進行するのか?ということは評価したことがなかった.不慮の出来事ではあるが,結果として30日間制限があり,作業療法を行わなかった.その場合,療養病棟に入院中の統合失調症の方の陰性症状は進行するのか統計学的に検証することにした.また,結果をもとに今後の作業療法のプログラムを検討することにする.
【目的】
 療養病棟において30日間制限および作業療法を行わなかった場合,統合失調症の方の陰性症状は進行するのか検証する.検証結果から今後の作業療法プログラムを検討する.
【研究方法】
 活動制限前と,制限後の作業療法場面で比較する.対象は療養病棟に入院中の統合失調症の方.新型コロナウイルス感染症の非罹患者および罹患後症状が生活に影響を与えていない25名.作業療法評価記録にて普段使っている5段階評価のデータを利用する.「1:拒否」「2:要観察」「3:誘導が必要である」「4:活動している」「5:積極的に活動している」の5段階評価で行い,各データには1~5の数値をつけて集計した.集計した.結果は,平均±標準偏差で示し,群間の比較はウィルコクソン検定で行い,P<0.05を持って有意差ありとした.
【倫理的配慮】
 対象者に対し,調査結果は個人が特定されないようにデータ処理を行い,匿名性に配慮すること,データは本研究のみに利用し目的外使用はしない旨を伝え,書面にて同意を得た.
【結果】
 制限前と,制限後では平均値3.400と3.200,標準偏差では1.291と1.1225となった.P=0.043となり,制限前と制限後ではデータ間に統計学的な有意差が認められた.作業療法を30日間行わなかった場合,入院中の統合失調症の方の陰性症状は進行するといえる.
【結論】 
 今回の研究で,作業療法の必要性を体感する機会となった.また,制限の中でも,作業療法を行っていく重要性を認識する機会となった.
 一般的に統合失調症の陰性症状改善には人との交流が欠かせない.今後も感染対策委員会と協議しながら,制限中であっても,感染リスクの低い屋外での活動や,ベッドサイドでの個別作業療法,タブレット等の端末を利用した遠隔での作業療法を検討していく.それらを導入することで陰性症状の進行を防ぐことが可能になるかもしれない.