第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-10] ポスター:教育 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PR-10-2] 三次元動作解析システム(3D-MAS)を用いた講義・演習の実践紹介と課題

岩間 孝暢, 柏崎 勉, 中川 育映, 神成 笑里 (弘前医療福祉大学保健学部医療技術学科作業療法学専攻)

【はじめに】
 2020年4月より適用された新カリキュラム(理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則の一部改正とそれに伴う同ガイドライン改正による)では,特に卒前教育において,高度化する医療ニーズに対応した実践能力を身につけるための基礎的知識と技能の習得が求められた.その中で作業療法評価においては,医用画像の利用を含むことが盛り込まれ,また,三次元動作解析装置(3D-MAS)の設置が明文化された.このことは,臨床で求められる動作分析に対して,多角的視点を育む内容がカリキュラムに求められたことを意味する.
 他方,臨床における動作分析においては,従来,個々の作業療法士の能力によるところが大きかった視診などによる評価を補うべく,画像や動画を用いた評価や各種センサーなどの計測機器が開発・導入されてきた.その中で3D-MASは,被検者の体表に貼付した反射マーカーを赤外線カメラで捉え,三次元位置をリアルタイムに計測できる機能を有する.このシステムでは,三次元的な関節角度の測定に加え,床反力計や筋電計などを実装すると,より総合的な解析が可能となる.臨床研究の成果としては,脳卒中片麻痺患者の書字動作解析(Y.Fujiwara et.al 2020)や脳性麻痺児・者における上肢機能の解析(I.Vanmechelen et.al 2022)などが報告されている.
 このような手法によって得られるデータは,解析能が高く臨床的エビデンスに耐え得るものの,計測から解析までの手順が煩雑で,使いこなすために高度なスキルが要求される.しかしながら,作業療法教育において関連する実践報告は少なく,これらのスキルを体系的に学ぶ機会がほとんどないのが現状と思われる.そこで今回われわれは,臨床実践につなげることを目的に,3D-MASを用いて身体運動の指標を可視化し,学生に対してバイオメカニクスをイメージさせる講義・演習を試みた.
【実践の紹介】
 本学における3D-MASを用いた講義・演習は,専門科目の中で動作分析学(2年次後期/15時間)と動作分析学演習(3年次前期/30時間)である.今回紹介する内容は,立ち上がり動作(2種の方略を2条件で実施)を3D-MASで計測し,課題を検討させたものである.対象学生は42名(7グループに編成)であった.課題のパラメータは,三次元的関節可動域の時間変化(股関節,膝関節,足関節),床反力,動画(矢状面,前額面)であった.
 今回われわれが使用した3D-MASは,MAC3D System(nac社)に床反力計(AMTI社)を組み込んだシステムである.このシステムをコントロールするソフトウエアCortexは,計測空間情報の取得や各種動作データの収集など全てをリアルタイムで可能にする.各パラメータは,アドインソフトMotion Composerを用いて整理し,再生ソフトMotion Viewerにて学生個々人が所有するノートPCで解析結果を比較・確認できるよう設計した.また,解析により得られた三次元的関節可動域の時間変化のデータは,表計算ソフトにエクスポート後にグラフ化して比較できるようにした.
【まとめと展望】
 今回の教育実践においては,学生が自ら計測した多角的データを繰り返し再生・確認することができ,また,課題を通して学生同士のインタラクティブなディスカッションが可能であった.この成果としては,動作分析学的視点の醸成や分析スキルの向上があげられる.臨床において患者の動作や姿勢を分析するためには,運動学に加えて運動力学的指標の理解が前提となる.この指標は,3D-MASに代表される動作解析機器の活用によって可視化できる.今後は,このシステムを用いた教育実践の有効性や有用性などに関する効果検証が課題と考える.