第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-11] ポスター:教育 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PR-11-1] 作業療法士経験を活かした特別支援教育実践例

秋元 裕太朗 (群馬県立特別支援学校)

【はじめに】
 今回,作業療法士経験を活かした特別支援学校での教育の実践報告を行う.本報告に関して,本人と保護者に説明を実施し了承を得た.
【事例紹介】
 特別支援学校高等部2年男子.ダウン症候群,知的障害(療育手帳A2).生育歴は,出産時正常分娩.発語は1歳6ヶ月,歩行開始2歳0ヶ月であった.右心房三尖弁逆流症の合併症あり(定期検診のみで運動制限なし).ADLは全て自立.歩行自立.構音障害はあるが,日常会話におけるコミュニケーション能力は良好.四肢の著明なROM制限は認めず,MMTは四肢4,体幹筋群2~3相当.筋緊張は腹筋群の低緊張を認め,座位及び立位の抗重力位では,一時的に緊張を高めることで良肢位での姿勢保持が可能だが,姿勢保持の持続性は乏しい状況である.学習場面でのイス座位では,徐々に円背し,腹部は圧迫され股関節は外転内旋し支持基底面を広く取り,足は机の外に出ていることが多い.また,両前腕を机に付いて重心を前腕から机にかけることで安楽姿勢を保っている.長時間の安定した座位保持が難しく,座学の授業等の学習課題では,注意・集中力を欠く二次的な問題が見られた.(1年/2年)4月時のスポーツテストの結果は,握力右(17/27)Kg,握力左(18/21)Kg,上体起こし(14/15)回,長座体前屈(38cm/51cm),反復横跳び(25/26)回,立ち幅跳び(82/96)cm,50m走(12.3/12.0)秒であった.
【支援内容】
 2年時(4月)に担任として支援を行う.1~3学期の自立活動の学習目標を「良い姿勢を保ちながら,イスに座って,学習や活動などに取り組むことができる」に設定.目標に対しての支援は,主に自立活動の授業の中で体幹exを中心に介入.具体的なプログラムでは,遊びの中で床面から上方へのリーチ課題,バランスボール運動,バードドック・ジャンプトレーニング,マット運動を行った.また,生活指導では,掃除の際への床の雑巾がけや上方への窓拭きを日常的に実施.
【経過と結果】
 月~金の曜日ごとに課題を分けて実施した.級友と一緒にゲーム形式で実施することで,課題の受け入れも良く楽しみながら行う.また個別メニューでも,級友と一緒に励まし合いながら行っていた.5月末になると,毎日のトレーニングがルーティン化し,自主的に課題に励むようになる.机上での学習場面での環境調整では,机下の床面に足底接地ができるように,床に足跡マークを貼り,机の外に足が出ないようにした.また,イス座位時にビーズクッションで,殿部~腰背部にかけての支持面を拡大することで,座位での疲労を軽減させ,机上学習や課題に集中して取り組めるようにした.2年2月時のスポーツテストの結果では握力右27Kg,握力左23Kg,上体起こし20回,長座体前屈50,反復横跳び32回,立ち幅跳び100cmとなった.体幹筋群の筋力増強や筋緊張が高まったことで,学校生活では座位,立位姿勢に改善が見られるようになった.学習では,学習に参加できる時間が増加した.クッション等を使用しなくても,良肢位姿勢でイス座位を保てるようになり,且つ30分以上集中して授業に取り組むことができるようになった.
【考察】
 特別支援学校では,障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とし, 日々教育活動にあたる.自立活動の「身体の動き」に該当する体幹機能の部分に着目した支援を継続したことで,体幹機能が向上し,姿勢保持機能や学習や運動パフォーマンス向上に繋がったと考えられる.年単位での継続した支援及び,幅広いメニュー種目の組み合わせが本事例に有効な教育実践になったことが示唆される.