[PR-12-5] 臨床実習を経験することによる作業療法学生の心理的変化
1.序論と目的
学生は大きな不安とともに臨床実習に臨む.そこでは,よい成果を得たい,失敗を避けたいといった思いを抱えつつ,自らを律し粘り強く学習するセルフコントロールが求められる.近年インターネット依存傾向が問題となる学生も散見され,実習を通しての心理的成長やその阻害要因との関係を明らかにしていく必要がある.本研究の目的は,長期実習(以下,実習)を経験することによる学生の利得接近志向,損失回避志向,セルフコントロール,孤独感,インターネット依存傾向,不安感の変化やこれらの関係を検討することである.
2.方法
2021年度・2022年度のA大学4学年作業療法学科学生を対象に,実習前後に自記式の評価を複数回実施する.第1回目はⅠ期実習の開始1ヶ月前,第2回目はⅠ期実習の開始1週間前,第3回目はⅡ期実習の開始1週間前,第4回目はⅡ期実習の終了1週間後,第5回目はⅡ期実習の終了1ヶ月後とする.評価項目は以下とする.
1) 促進予防焦点尺度邦訳版(尾崎・唐沢,2011)の下位尺度「利得接近」「損失回避」志向尺度
2) セルフコントロール尺度短縮版邦訳版(尾崎ら,2016),以下「BSCS」
3) UCLA孤独感尺度第3版短縮版(豊島・佐藤,2013),以下「UCLA.LS」
4)悩み事を相談できる知り合いの人数,以下「相談先」
5) インターネット依存度テスト(Young,1998)邦訳版,以下「IAT」
6) 新版 STAI(肥田野ら,2000) の下位尺度「状態不安」尺度,「特性不安」尺度
上記各得点間のSpearmanの相関係数を算出する.第1回目評価で聴取した「特性不安」の平均点を基準に特性不安低群と高群に分け,それぞれの得点について群内(Friedman検定とBonferroni法による多重比較)および群間(Mann-Whitney U検定)の比較を行う.有意水準は 5% とする.
対象者には研究について口頭と書面にて十分に説明し,書面にて同意を得る.本研究は筆頭演者所属大学倫理委員会の承認を受けている.
3.結果
対象者75名から研究への協力が得られた.複数解答に欠損値があった11名のデータを分析から除外し,最終的な分析対象者は64名(男性29名,女性35名)であった.
有意かつ中等度以上(|r|>=0.4)の相関に注目すると,「利得接近」は「BSCS」(正)および「UCLA.LS」(負)と相関があり,「損失回避」「IAT」「状態不安」「特性不安」の間には相互に相関(正)があり,「IAT」は「BSCS」(負)とも相関が確認された.特性不安低群は1,2,3回目に比べて5回目の「利得接近」が向上していた(順にp=.002, p=.044, p=.007).また1回目に比べて5回目の「BSCS」が向上した(p=.017).特性不安高群は1,2回目に比べて3回目の「BSCS」が向上した(順にp=.009, p=.014).特性不安における群間比較では,高群は低群に比べ,全5回の「損失回避」「UCLA.LS」「IAT」「状態不安」が高く,第1,2,4回の「BSCS」「相談先」が低かった.
4.考察
セルフコントロールは,よい成果を得たいという志向性に影響する可能性がある.特性不安は実習期間を通じ,幾つかの心理的傾向と関係していた.しかし不安を感じやすいかどうかにかかわらず,実習経験は学生の自己統制を高め,成長促進的である.不安を感じにくい学生にとっては,その後の学習意欲の向上をもたらす可能性がある.
学生は大きな不安とともに臨床実習に臨む.そこでは,よい成果を得たい,失敗を避けたいといった思いを抱えつつ,自らを律し粘り強く学習するセルフコントロールが求められる.近年インターネット依存傾向が問題となる学生も散見され,実習を通しての心理的成長やその阻害要因との関係を明らかにしていく必要がある.本研究の目的は,長期実習(以下,実習)を経験することによる学生の利得接近志向,損失回避志向,セルフコントロール,孤独感,インターネット依存傾向,不安感の変化やこれらの関係を検討することである.
2.方法
2021年度・2022年度のA大学4学年作業療法学科学生を対象に,実習前後に自記式の評価を複数回実施する.第1回目はⅠ期実習の開始1ヶ月前,第2回目はⅠ期実習の開始1週間前,第3回目はⅡ期実習の開始1週間前,第4回目はⅡ期実習の終了1週間後,第5回目はⅡ期実習の終了1ヶ月後とする.評価項目は以下とする.
1) 促進予防焦点尺度邦訳版(尾崎・唐沢,2011)の下位尺度「利得接近」「損失回避」志向尺度
2) セルフコントロール尺度短縮版邦訳版(尾崎ら,2016),以下「BSCS」
3) UCLA孤独感尺度第3版短縮版(豊島・佐藤,2013),以下「UCLA.LS」
4)悩み事を相談できる知り合いの人数,以下「相談先」
5) インターネット依存度テスト(Young,1998)邦訳版,以下「IAT」
6) 新版 STAI(肥田野ら,2000) の下位尺度「状態不安」尺度,「特性不安」尺度
上記各得点間のSpearmanの相関係数を算出する.第1回目評価で聴取した「特性不安」の平均点を基準に特性不安低群と高群に分け,それぞれの得点について群内(Friedman検定とBonferroni法による多重比較)および群間(Mann-Whitney U検定)の比較を行う.有意水準は 5% とする.
対象者には研究について口頭と書面にて十分に説明し,書面にて同意を得る.本研究は筆頭演者所属大学倫理委員会の承認を受けている.
3.結果
対象者75名から研究への協力が得られた.複数解答に欠損値があった11名のデータを分析から除外し,最終的な分析対象者は64名(男性29名,女性35名)であった.
有意かつ中等度以上(|r|>=0.4)の相関に注目すると,「利得接近」は「BSCS」(正)および「UCLA.LS」(負)と相関があり,「損失回避」「IAT」「状態不安」「特性不安」の間には相互に相関(正)があり,「IAT」は「BSCS」(負)とも相関が確認された.特性不安低群は1,2,3回目に比べて5回目の「利得接近」が向上していた(順にp=.002, p=.044, p=.007).また1回目に比べて5回目の「BSCS」が向上した(p=.017).特性不安高群は1,2回目に比べて3回目の「BSCS」が向上した(順にp=.009, p=.014).特性不安における群間比較では,高群は低群に比べ,全5回の「損失回避」「UCLA.LS」「IAT」「状態不安」が高く,第1,2,4回の「BSCS」「相談先」が低かった.
4.考察
セルフコントロールは,よい成果を得たいという志向性に影響する可能性がある.特性不安は実習期間を通じ,幾つかの心理的傾向と関係していた.しかし不安を感じやすいかどうかにかかわらず,実習経験は学生の自己統制を高め,成長促進的である.不安を感じにくい学生にとっては,その後の学習意欲の向上をもたらす可能性がある.