第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

教育

[PR-2] ポスター:教育 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PR-2-5] 臨床実習を通したクリニカルリーズニングの変化とその要因

菊池 祐介1,2, 山田 竜大1,3, 溝部 和1, 古館 裕大1, 丸山 祥4,5 (1.函館市医師会看護・リハビリテーション学院, 2.東京都立大学大学院人間健康科学研究科作業療法科学域博士後期課程, 3.吉備国際大学大学院通信制保健科学研究科作業療法学専攻修士課程, 4.湘南慶育病院リハビリテーション科, 5.東京都立大学健康福祉学部作業療法学科客員研究員)

【はじめに】2020年に改正された養成施設指定規則によれば,実習の在り方の見直しと質の向上が求められていることは明らかである.日本作業療法士協会は,実習における中心的課題の一つとしてクリニカルリーズニング(以下,CR)の学習を挙げ,実習の形態によらず,CRの学習は促進される必要がある(WFOT,2016).今後CRに関する科学的知見の蓄積が望まれている中,これまで作業療法学生(以下,OTS)の実習におけるCRの変化に着目した報告はない.
【目的】総合実習I・II(各8週)の経験がOTSにもたらすCRの変化とその要因について,予備的に検証する.
【対象】本学作業療法学科に所属し,上記実習を修了した37名を対象とした.
【方法】本研究は混合研究法の収斂デザインを用いた.量的データ収集では,Self-Assessment scale of Clinical Reasoning in Occupational Therapy(以下,SA-CROT)を用いた.これは4つの因子(1:科学的根拠を活かす,2:対象者のナラティブを活かす,3:専門職の倫理を活かす,4:実践の文脈を活かす)を構成する作業療法のCRの自己評価尺度である.総合実習I前(pre),総合実習I・II間(中間),総合実習II後(post)の3時点においてSA-CROTを実施した.質的データ収集では,SA-CROTの質問項目に沿って実習を通した経験の自由記述を,各実習後に促した.量的データ分析は,実習毎の得点の変化についてFriedman検定を行い,Wilcoxonの符号順位検定にて多重比較を実施した(Bonferroni補正,有意水準=0.016).統計ソフトはR(4.1.3)を用いた.質的データ分析は,KH coder(Ver.3.0)を用いて計量テキスト分析を実施した.本研究では頻出語の単純統計並びに各因子と語の関係を共起ネットワーク図,対応分析にて出力し,KWICコンコーダンスにて語の文脈を共著者と確認し解釈を加えた.さらに量的・質的データの分析結果を統合し,対照比較を行った.本研究は本学研究倫理委員会の承認並びに参加者の同意を得ている.
【結果】最終的な分析対象は36名(回答率97%)であった.量的分析の結果,Friedman検定において,有意な差が認められた(P<0.05).多重比較の結果,SA-CROT総得点・因子2・3・4ではpre-中間,pre-postにおいて,因子1ではpre-postにおいて有意な向上(p<0.016)を認めた.質的分析の結果,総合実習Iでは総抽出語数7,384語,対象者(99),考える(41),介入(38)が出現頻度上位であり,総合実習IIでは総抽出語数7,626語,対象者(94),行う(53),考える(46)が出現頻度上位であった.共起ネットワーク図と対応分析から,総合実習I・IIに共通して各因子に特徴的な語が出現し,因子1・3・4は「対象者」の語を中心に結びつきが確認された.さらに総合実習IIに特徴的な語として「趣味」「作業」「表情」「感じる」「ADL」等が描かれた.
【考察】量的分析により,総合実習I・IIの経験は学生のCR能力の向上に寄与したが,総合実習I・IIの間に差は認めなかった.一方,質的分析から,総合実習IからIIにかけて,OTSは対象者中心の実践を経験し,経験に拡がりがあったことが明らかとなった.OTSのCR学習は「対象者中心」の実習経験によって促進され,学習の過程は量・質の両側面から検討する必要があると考えられた.