第57回日本作業療法学会

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ポスター

教育

[PR-3] ポスター:教育 3

Fri. Nov 10, 2023 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PR-3-7] Problem-based Learningを活用した実技指導動画教材作成による学習効果

岡部 拓大1,2, 趙 吉春1, 平田 恵介1, 森下 佑里1, 清水 順市1 (1.東京家政大学健康科学部リハビリテーション学科, 2.小平中央リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【背景・目的】COVID-19パンデミックに伴い,医療職では臨床実習を代替する実習方法の確立が急務となった.本取り組みでは,学内実習において,臨床解析・技能演習として実技指導教材(症例設定,評価基準設定,実技動画)を作成し,学科内の自己学習コンテンツとして共有する試みを行った.本研究は,Problem-based Learning(以下PBL)を活用した本演習によって,批判的思考や臨床的推論といった臨床に必要なコンピテンシーにどのような効果があるのかを検証し,COVID-19パンデミック下において新しい学習システムを構築することを目的とした.
【方法】2021年度4年次(28名)および2021年度3年次(51名)の臨床実習において学内実習に参加した学生79名を対象とした.本演習のプロセスとして症例設定,実技の評価基準設定,実技動画撮影および編集,報告会,教材の共有をグループワークによって行った.学習効果の判定には,批判的思考・臨床的推論の主観的な評価法であるSelf-Assessment of Clinical Reflection and Reasoning(以下SACRR)を用いた.SACRRは26項目の質問から成り,5(非常にそう思う)から1(全くそう思わない)までの5段階のリッカート尺度で評価した.統計解析にはSPSS(IBM)を用い,演習前後のSACRRの比較を行うためWilcoxonの順位和検定を実施した.有意水準は5%未満とした.
【結果】本演習によってSACRR26項目のうち「様々な基準枠によって臨床上の問題を理解しようとする」,「自分の経験から臨床仮説を検証する」,「介入を計画する前に臨床上の問題点を明確にしている」,「経験に基づいて診療の意思決定をしている」等,19項目において改善が認められ,3項目において改善傾向であった. 一方で,「十分なデータが得られるまでは判断しない」,「対象者の家族の意見を聞いている」,「対象者に対する介入について,それがうまくいったかどうかを判断する」等,4項目においては有意な改善が認められなかった.
【考察】本研究の結果,本演習により,情報や経験に基づいた臨床推論と懐疑的思考に関する自己評価が改善された.健康科学分野において,PBLを用いた教育方法の効果について報告されており(Santos et al., 2019),作業療法(Spalding et al.,2010)や理学療法(Willis et al., 2018)においてもその効果が報告されている.また,PBLによる教育方法が従来の講義ベースのカリキュラムと比較して,客観的臨床能力試験のスコアが高かったと報告されている(Zahid et al., 2016).本演習によって,疾患に対しての基礎的な知識からリハビリテーション各論に至るまでの知識を修得でき,また,設定した疾患やその程度によってどのような検査測定結果や介入方法になるかを想定するといった臨床推論の促しとなった.動画撮影・編集では,表現力やICT技術の向上にもつながった.さらに,作成した教材を共有し,幅広い臨床技能の獲得や,自身の成果物が他者の有益な学習素材となることで,学生の自己効力感の向上にも繋がったと考える.一方で,本取り組みでは,介入によって得られる反応への洞察やアプローチ,家族や他職種に対するアプローチに関しては学習が困難であった.当然ではあるが,学内実習によって臨床実習を代替することが難しい側面は多々あるため,今後も臨床と連携して臨床実習とリンクした新しい教育システムを構築する必要がある.
 COVID-19パンデミックによって,学生や教員にとって厳しい環境になっているが,困難に見舞われた時こそ,新しい教育体制の分岐点になりうるため,教員はより効果的で時代のニーズに合った教育方法を検討する契機となるのではないかと考える.