[PR-8-5] 読唇ができないと訴える難聴学生に対する新型コロナウイルス禍における学習支援
【はじめに】
未だ,新型コロナウイルス感染症は人々の生活に多大な影響を及ぼしている.中でも,長期間に及ぶマスク生活により,手話以外で用いられる読唇ができず,他者と交流が困難となり,孤立する難聴者が増加している.難聴者に対するコミュニケーションツールは様々だが,医療系専門学校において,情報弱者となりうる学生にとって,専門用語や検査測定の評価技術を習得することはマスク装着により更に困難になっている.しかし,医療系専門学校において難聴者に対する支援方法は確立されていない.そこで,今回,難聴の学生に対し,様々な介入を行った結果,学生のストレスが軽減され,学習の理解度が深まり,結果成績も向上した.難聴者に対する学習支援方法について検討したので以下に報告する.なお,発表に際し,本人の同意を得ている.
【目的】
マスク着用により読唇ができなくなった難聴の学生に対して,どのようなサポートが効果的な学習となるかを明らかにすることである.
【学生紹介】
20代前半,女性.先天性感音性難聴(聴覚障害者2級:両裸耳115dB以上.装用20〜30dB).幼少期,右人工内耳.入学前の7月に左人工内耳を施術.両耳人工内耳装用し,STリハビリ中.小学校は普通校(読唇)に通い, 中学と高校は聾学校(手話).高校卒業後,介護職に就き,介護福祉士資格取得.介護士として従事している際は,主に読唇でコミュケーションを取っていた.現在の聞こえ方として,右は音の判断が可能だが,言語として理解することは困難.補助的に視覚情報として読唇することで理解度が高まる.口元を見せることが困難な場合,可能な限り筆談が必要.
【経過】
入学前より,聞こえ方について情報を聴取.コロナ禍ということもあり読唇は,パーテーションまたはマスクオフのフェイスシールド着用で対応した.タイムリーな情報共有を行うため,Lineを使用.入学後は,講義実施の際,講師の口元が見えるよう透明のマスクを装着し,本人が持参した集音マイク(ロジャー)を使用した.しかし,望まれる情報獲得(資料や教科書の解説を講師が行うことなど)には至らなかった.より良い方法の検討を重ね,できることできないことを相談しながら,その都度考えられる支援方法を共有した.それらを,学科内で協議し,評価法の講義では,読唇がより困難となるため,手話通訳の導入,また,講義資料の配布やGoogleドキュメントの音声入力を使用した講義へと展開した.結果,必要な情報が得られやすくなり,本人から「授業が理解しやすい」と学習の習熟度に満足している発言が聞かれた.前期と比較し,後期の成績も向上した.
【考察】
今回,難聴の学生に対する学習支援について,授業の受け心地を聞くなど本人の思いを聴取し,その都度必要な支援を行った.彼女の抱えている聞こえの問題に対し,信頼関係を築きながら,協働作業を行うことで,本人の満足度が高まった.カウンセリングを行う作業療法士の原則として,いま,ここにある問題に焦点を当てて解決を試みた1)ことで教育者としてではなく,伴走者として本人の問題解決に取り組むことができたと考える.
以上のことから,難聴者に対する効果的な学習支援を,様々な方法で検証したが,最も大切なことは,作業療法士として,一人の対象者の思いに寄り添うことが本来あるべき姿であると感じた.
1)大嶋伸雄:患者力を引き出す作業療法―認知行動療法の応用による身体領域作業療法―.三輪書店.2013
未だ,新型コロナウイルス感染症は人々の生活に多大な影響を及ぼしている.中でも,長期間に及ぶマスク生活により,手話以外で用いられる読唇ができず,他者と交流が困難となり,孤立する難聴者が増加している.難聴者に対するコミュニケーションツールは様々だが,医療系専門学校において,情報弱者となりうる学生にとって,専門用語や検査測定の評価技術を習得することはマスク装着により更に困難になっている.しかし,医療系専門学校において難聴者に対する支援方法は確立されていない.そこで,今回,難聴の学生に対し,様々な介入を行った結果,学生のストレスが軽減され,学習の理解度が深まり,結果成績も向上した.難聴者に対する学習支援方法について検討したので以下に報告する.なお,発表に際し,本人の同意を得ている.
【目的】
マスク着用により読唇ができなくなった難聴の学生に対して,どのようなサポートが効果的な学習となるかを明らかにすることである.
【学生紹介】
20代前半,女性.先天性感音性難聴(聴覚障害者2級:両裸耳115dB以上.装用20〜30dB).幼少期,右人工内耳.入学前の7月に左人工内耳を施術.両耳人工内耳装用し,STリハビリ中.小学校は普通校(読唇)に通い, 中学と高校は聾学校(手話).高校卒業後,介護職に就き,介護福祉士資格取得.介護士として従事している際は,主に読唇でコミュケーションを取っていた.現在の聞こえ方として,右は音の判断が可能だが,言語として理解することは困難.補助的に視覚情報として読唇することで理解度が高まる.口元を見せることが困難な場合,可能な限り筆談が必要.
【経過】
入学前より,聞こえ方について情報を聴取.コロナ禍ということもあり読唇は,パーテーションまたはマスクオフのフェイスシールド着用で対応した.タイムリーな情報共有を行うため,Lineを使用.入学後は,講義実施の際,講師の口元が見えるよう透明のマスクを装着し,本人が持参した集音マイク(ロジャー)を使用した.しかし,望まれる情報獲得(資料や教科書の解説を講師が行うことなど)には至らなかった.より良い方法の検討を重ね,できることできないことを相談しながら,その都度考えられる支援方法を共有した.それらを,学科内で協議し,評価法の講義では,読唇がより困難となるため,手話通訳の導入,また,講義資料の配布やGoogleドキュメントの音声入力を使用した講義へと展開した.結果,必要な情報が得られやすくなり,本人から「授業が理解しやすい」と学習の習熟度に満足している発言が聞かれた.前期と比較し,後期の成績も向上した.
【考察】
今回,難聴の学生に対する学習支援について,授業の受け心地を聞くなど本人の思いを聴取し,その都度必要な支援を行った.彼女の抱えている聞こえの問題に対し,信頼関係を築きながら,協働作業を行うことで,本人の満足度が高まった.カウンセリングを行う作業療法士の原則として,いま,ここにある問題に焦点を当てて解決を試みた1)ことで教育者としてではなく,伴走者として本人の問題解決に取り組むことができたと考える.
以上のことから,難聴者に対する効果的な学習支援を,様々な方法で検証したが,最も大切なことは,作業療法士として,一人の対象者の思いに寄り添うことが本来あるべき姿であると感じた.
1)大嶋伸雄:患者力を引き出す作業療法―認知行動療法の応用による身体領域作業療法―.三輪書店.2013