[SS-4-1] 脳卒中患者の上肢運動障害の重症度に応じた練習項目の自動設定を可能とするアルゴリズムの開発
【はじめに】脳卒中後に生じる上肢運動障害は対象者のQuality of lifeに影響を与えると言われている.上肢運動障害に対するアプローチ方法の一つにロボット療法がある.ロボット療法の効果について,米国心臓学会のガイドラインには「重度・中等度の上肢運動障害において運動量確保において効果的である」とされている.しかしながら,ロボット療法は教育課程でも触れられず,作業療法士が臨床に出た後に運用方法について学ぶため,全ての療法士が適切なプログラムを作成できるわけではない.そこで,本研究ではReoGo-J(帝人ファーマ株式会社)における標準練習プログラムを自動設定できるアルゴリズムを探索的に開発したので報告する.【方法】2020年1月から2021年4月までに26施設で前向きに調査した片麻痺を有する20歳以上の312名を対象とした.研究デザインは,多施設共同横断研究である.評価項目は年齢,性別,Brunnstrom Recovery Stage(BRS)といった患者背景情報と主要評価項目として,ReoGo-Jテスト(本試験のために作成したテストである.ReoGo-Jに内蔵されている練習メニューの種別,練習モードにおけるアシストの種類,リーチ範囲の組み合わせによって構成された71個の練習項目に対して,各対象者が練習した際の動作の質の適切性を評価ためにMotor Activity Log[MAL]のQuality of Movement[QOM](5点満点)を用いて評価した.MALの0-3.5点を0点,3.5-4.0点を1点,4.0-5.0点を2点と定義した順序尺度を用いて全項目を評価するテストである)を測定した.副次評価項目として各対象者の麻痺の重症度を調査するためにFugl-Meyer Assessment(FMA)の肩・肘・前腕の項目を測定した.全症例のReoGo-Jテストの結果に対し,データの一次元性が確認できた後,2パラメーターロジスティックモデルを用いた項目反応理論を適応した上で,最尤推定法により分析し,1)各練習項目の難易度(各練習項目が適切な練習となる能力値θの範囲),2)各練習項目の難易度から推定される対象者毎の能力値θ,を算出した.これらの結果を統合し,能力値θから各対象者に適切な練習項目を推定するモデルを構築した.また,ピアソンの積率相関係数を用いて,FMAの肩・肘・前腕の項目と各対象者の能力値θの関係性を検討する.本研究のプロトコルは倫理審査委員会にて認証されている(第3354号).【結果】対象者の年齢は60.99±13.03(平均±標準偏差),男性208名,女性104名であった.BRSの内訳はⅠ: 0名,Ⅱ: 25名,Ⅲ: 95名,Ⅳ: 77名,Ⅴ: 95名,Ⅵ: 20名であった.データの一次性は確認でき,当てはまりの悪い対象者及び項目はなかった.2パラメータロジスティックモデルを用いた項目反応理論により対象者の能力値(θ)と評価項目の難易度(θ)を各々推定し,能力値θに応じて推奨される訓練項目を示すことができた.全データを用いたモデルの当てはまりについては,信頼係数0.994,AICは複数のデータセットに対して実施した分析の中では最も低い20945.8であり,モデルの当てはまりに関する妥当性が確認された.最後に,FMAの肩・肘・前腕の項目と対象者の能力値θの関係性については相関係数が0.80(p<0.01)であることが示された.【考察】ReoGo-Jテストのデータを用いて2パラメータロジスティックモデルを用いた項目反応理論による分析とFMAの肩・肘・前腕との直線回帰分析において,FMAの肩・肘・前腕の値から対象者の能力値θを推定し,それに応じた適切な練習項目を選択するアルゴリズムを開発できた.ただし,このアルゴリズムの妥当性については,今後非劣性のランダム化比較試験を通して検討する必要がある.