第58回日本作業療法学会

講演情報

教育講演

[EL-1] 教育講演1
脳血管障害に対する作業療法:
新たな可能性の探索 

2024年11月9日(土) 12:50 〜 14:20 A会場 (特別会議場)

座長:長谷川 敬一(一般財団法人竹田健康財団 竹田綜合病院)

[EL-1-1] 脳血管障害患者のADL訓練について
~マーカーレスモーションキャプチャーを使用した動作分析~

髙橋 啓吾 (リハビリテーション天草病院)

 近年、スポーツ・ダンス・演劇などの分野では3次元動作解析装置を用いた分析が進化してきている。リハビリテーションの分野でも、歩行や立ち上がり等において3次元動作解析装置などで分析することが増えてきている。しかし、ADL動作では、3次元動作解析装置を使用した報告は少ない状態である。背景には、ADLは複合動作であり、どの動作をどのように解析するかを規定する事が難しいことが考えられる。また、精密に解析するには特殊で高価なデバイスを用意する必要があることも臨床場面で使用しづらい点になっている。
 我々の研究チームでは、比較的安価であり、特殊スーツやウェラブルセンサーを使用せず、介入動作場面の撮影で解析できるマーカーレスモーションキャプチャーを使用してのADLの解析を行っている。セラピストの介入効果を示すためには、1回の介入でどのような変化が得られたかの“即時効果”を示すことが効果検証として重要と考えるため、40分~60分程度の介入前後で得られたADL動作の変化を比較検証した。
 講演では、脳卒中片麻痺者の“更衣動作”・“トイレ動作”に介入した場面と、マーカーレスモーションキャプチャーでの比較検証について紹介する。更衣では①麻痺側肩関節の可動範囲の計測、②非麻痺側上肢での衣服の操作性について比較検証した。①の関節可動域の測定をする際は、所定の場所で肢位を止めて、角度計で測定することが一般的であるが、モーションキャプチャーを使用すると、四肢の変化を数値化することができるため、動作中の関節の角度を測定できるメリットがある。②については、更衣動作中の非麻痺側手関節付近の軌道を計測し、軌道の距離を介入前後で比較した。介入後の非麻痺側手関節付近の動作中の総軌跡長が短くなったため、非麻痺側上肢での衣服操作が効率的かつ円滑になることが示唆された。トイレ動作では①立ち上がり動作の分析、②下衣をおろす動作について介入前後の比較検証をした。トイレ動作は、立位バランスが重要であるが、バランスの保持を数値化するためには、重心動揺計を使用することが多いと思われる。①②の場面における介入前後のバランスの比較をモーションキャプチャーで比較検証した結果、介入前後で両股関節・両足関節を結ぶ中心点の動揺が減る結果が得られ、バランスの安定化を示すことができた。
 ADL訓練の即時効果を示すために、モーションキャプチャーなどのデバイスを使用することも、今後の作業療法の介入効果を示すために有効であると考える。今回は、上記の脳卒中片麻痺者のADLへの介入場面と効果判定について紹介する。