[EL-1-2] 脳卒中後の上肢麻痺に対する根拠に基づく実践と脳画像の活用
近年、人工知能(AI)やロボット技術の発展は目覚ましく、医療福祉分野にも導入が進んでいる。脳血管障害に対する作業療法においても、これらの技術を積極的に取り入れ、新たな可能性を探索することが重要である。しかし、新技術の導入にあたっては、根拠に基づく実践(EBP)の概念を再確認し、適切に活用することが求められる。EBPとは、エビデンスのみならず、対象者の病態や環境、価値観、療法士の知識や経験を総合的に考慮し、最適なアプローチを導くものである。これを実現するためには、対象者との対話を重ね、共に目標を設定し、意思決定を行うプロセスが重要である。
EBPにおいて、対象者の「病態」を適切に把握することが不可欠である。脳卒中片麻痺患者の病態理解においては、従来から着目されてきた運動麻痺や感覚障害などに加え、自己身体に向けられる注意である「身体特異性注意」という新たな視点にも注目したい。我々の研究室では、この身体特異性注意を定量化する手法を開発し(Aizu, 2018)、さらに脳卒中後の回復過程において、身体特異性注意が実生活における麻痺手の使用量と関連することを報告した(Otaki, 2022)。これらの知見から、脳卒中患者の麻痺手使用を促進するためには、身体特異性注意も考慮したより深い病態理解が望まれる。
このような多角的な病態理解に基づき、最適なアプローチを選択することが重要である。これまで様々なリハビリテーション手法が考案されてきたが、重度麻痺に対する有効な方法は依然として限られている。特に、臨床で難渋することの多い手指に対する新たなアプローチとして、AI解析技術により対象者の運動意図を識別可能な筋電応答・外骨格型ロボット「MELTz手指運動リハビリテーションシステム」(FrontAct社)が注目されている。このシステムは慢性期脳卒中患者を対象に行われたランダム化比較試験において、上肢機能や痙縮の改善が確認されている(Murakami, 2023)。当院でも、東北地方で初めて導入し、外来や病棟の患者に適用している。
さらに、EBPを推進するためには、予後予測の精度向上も重要である。従来の予後予測法は、重度麻痺や高次脳機能障害を有する患者には適用が難しいことが多かった。この課題を克服する手段として、近年注目されているのが、日常臨床で撮像されるT1強調画像を用いて損傷ネットワークを解析する「disconnectome解析」である。この解析は、上肢機能だけでなく高次脳機能の予後予測にも活用でき、新たな予後予測法として期待されている。
本講演では、脳卒中後の上肢麻痺に対するEBPについて、各国のガイドラインに加えて、身体特異性注意という新たな視点による病態理解の深化、AIロボット技術によるアプローチの選択肢拡大、脳画像を用いた予後予測などの新たな知見を踏まえて紹介する。これらを通じて、脳血管障害に対する作業療法の発展について考える機会としたい。
EBPにおいて、対象者の「病態」を適切に把握することが不可欠である。脳卒中片麻痺患者の病態理解においては、従来から着目されてきた運動麻痺や感覚障害などに加え、自己身体に向けられる注意である「身体特異性注意」という新たな視点にも注目したい。我々の研究室では、この身体特異性注意を定量化する手法を開発し(Aizu, 2018)、さらに脳卒中後の回復過程において、身体特異性注意が実生活における麻痺手の使用量と関連することを報告した(Otaki, 2022)。これらの知見から、脳卒中患者の麻痺手使用を促進するためには、身体特異性注意も考慮したより深い病態理解が望まれる。
このような多角的な病態理解に基づき、最適なアプローチを選択することが重要である。これまで様々なリハビリテーション手法が考案されてきたが、重度麻痺に対する有効な方法は依然として限られている。特に、臨床で難渋することの多い手指に対する新たなアプローチとして、AI解析技術により対象者の運動意図を識別可能な筋電応答・外骨格型ロボット「MELTz手指運動リハビリテーションシステム」(FrontAct社)が注目されている。このシステムは慢性期脳卒中患者を対象に行われたランダム化比較試験において、上肢機能や痙縮の改善が確認されている(Murakami, 2023)。当院でも、東北地方で初めて導入し、外来や病棟の患者に適用している。
さらに、EBPを推進するためには、予後予測の精度向上も重要である。従来の予後予測法は、重度麻痺や高次脳機能障害を有する患者には適用が難しいことが多かった。この課題を克服する手段として、近年注目されているのが、日常臨床で撮像されるT1強調画像を用いて損傷ネットワークを解析する「disconnectome解析」である。この解析は、上肢機能だけでなく高次脳機能の予後予測にも活用でき、新たな予後予測法として期待されている。
本講演では、脳卒中後の上肢麻痺に対するEBPについて、各国のガイドラインに加えて、身体特異性注意という新たな視点による病態理解の深化、AIロボット技術によるアプローチの選択肢拡大、脳画像を用いた予後予測などの新たな知見を踏まえて紹介する。これらを通じて、脳血管障害に対する作業療法の発展について考える機会としたい。