第58回日本作業療法学会

講演情報

教育講演

[EL-1] 教育講演1
脳血管障害に対する作業療法:
新たな可能性の探索 

2024年11月9日(土) 12:50 〜 14:20 A会場 (特別会議場)

座長:長谷川 敬一(一般財団法人竹田健康財団 竹田綜合病院)

[EL-1-3] 脳卒中後上肢麻痺に対する手指伸展用スプリントの開発とディープラーニングを用いた三次元動作解析

酒井 涼 (福井医療大学 保健医療学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻)

 脳卒中後上肢麻痺に対する治療のひとつに装具療法がある。装具療法は、主に痙縮による筋緊張の亢進に伴う関節拘縮の進行や変形の予防として、筋や関節に持続的な伸張をかけるために用いられる。静的スプリントでは痙縮による関節拘縮の予防には十分な効果が期待できないとの報告(Lannin,2007)があるものの、機能的スプリントでは、背側支持の機能的装具(McPherson,1985)や弾性のあるプラスティック支柱付きのグローブ型装具(Gracies,2000)の使用による痙縮の減弱効果が報告されている。近年ではホームプログラムにも使用できるダイナミックハンドスプリント(Chang,2015)やスパイダースプリント(Tanabe,2013)など、その有用性が報告されている。一方で、患者の運動麻痺や痙縮の程度には個人差が大きく、装具の使用においては患者の状態に適したスプリントが求められる。また、手指の形状(太さや長さ)は、年齢や性別、職歴などによって異なり、個人ごとに最適化する必要があり、対象者毎の解剖学的構造の違いや機能回復の過程に応じたスプリントの作製・調整作業はセラピストにとって負担が大きい。そこで、我々の研究グループでは、装具療法の導入が行いやすいよう、個々の患者の麻痺や痙縮の程度、手指の形状に対応しやすく、かつ機能性の高い手指伸展補助スプリントを開発した。本講演では、その開発経緯と構造的特徴、臨床試験の結果について紹介する。
 また、このような装着型のスプリントの有用性を検証する方法を模索する中で、ディープラーニングを用いた手指のマーカーレス三次元動作解析手法に着目し、その解析基盤を構築した。手指は複数の関節が連動して運動を行っており、その複雑さから精確な運動の評価手法は確立されていない。我々は、撮影した動画上で人工知能(AI)技術を用いて手指の各部位を同定し、さらに複数のアングルから撮影した動画を三次元的に再構築することで、手指の動きを立体的に観察・抽出することに成功した。一方で、ゴニオメーターによる関節角度の計測とディープラーニングによる解析結果を比較し、精度、妥当性を分析したところ、関節部位によって異なった傾向を示すことが明らかになった。本講演では、その解析手法の概要と解析結果の分析により導き出した手指の三次元動作解析の特徴、今後の課題について、併せて紹介する。本講演が、脳血管障害の作業療法分野の発展の一助になることを願う。