第58回日本作業療法学会

講演情報

教育講演

[EL-3] 教育講演3
内部障害でのリハビリテーションで
作業療法士が期待されていること

2024年11月9日(土) 14:30 〜 16:00 B会場 (中ホール)

座長:佐藤 央基(神戸大学大学院保健学研究科パブリックヘルス領域)

[EL-3-2] ICUにおける作業療法士の役割

早川 貴行 (神戸市立医療センター中央市民病院)

 近年、ICU入室患者の高齢化と重症化が進行している。医療技術の進歩により救命率は向上したが、長期ICU滞在に伴う意識障害の遷延化、せん妄、認知機能低下により、病前のADLを下回る重症患者が増加している。その結果、身体機能だけでなく認知・精神機能の低下を含む集中治療後症候群(PICS)への対応が喫緊の課題となっている。
 救命から、治療後のADLやQOL維持・向上という新たな治療アウトカムへの変化に対応するには、多職種による長期的かつ包括的アプローチが不可欠である。特に認知機能、ADL、環境調整を専門とする作業療法(OT)への期待が高まっている。重症患者に対するOTは、認知機能、ADLや転帰を改善し、入院期間短縮やせん妄予防にも効果的であることが報告されている。
 「集中治療における早期リハビリテーション~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~」によると、ICUでのOTの役割は、早期からの応用動作能力の回復を促し、ADLの自立を促すことと記載されている。具体的に、身体および精神機能の意識機能、認知機能、高次脳機能・精神心理機能、せん妄などの評価も挙げられている。このようにOTの役割は多岐にわたり、PICS対策にも大きく貢献すると期待されている。
 一方、ICUでのOT実践には課題もある。人工呼吸管理下での安全な離床やライン管理に関する専門知識や経験が必要となること、ICUにおける客観的評価や介入のエビデンス不足により標準化に向けたミニマムスタンダードの確立が急務となっていること、さらには重症患者の病態を学ぶ機会が限られ、ICUに従事するOTも少ないため、OT自身がICUでの役割を十分に認識できていないという課題がある。
 当院では、全病棟に専従理学療法士(PT)を配置し、入院後48時間以内にリハビリテーションを開始している。PTとOTの役割分担を明確化し、早期介入を可能としている。標準的なOTプログラムに加え、せん妄予防と早期ADL改善を目指し、ロボットリハビリテーションやVRなどの先進機器を積極的に導入し、また精神的介入として個別的な趣味活動を提供することで、ICUにおける幅広い病態に対応している。
 本講演では、ICUにおけるOTの役割や介入とその課題について詳述し、当院におけるICUでのOT標準化と質向上への取り組みを紹介するとともに、今後の方向性について議論したい。