第58回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-1] 一般演題:脳血管疾患等 1

Sat. Nov 9, 2024 12:10 PM - 1:10 PM C会場 (107・108)

座長:片桐 一敏(医療法人 喬成会 花川病院 リハビリテーション部)

[OA-1-1] 回復期の作業療法士が機能的な目標を希望する脳卒中者と共に作業に焦点を当てた目標を設定するまでの関わり

佐藤 亮太1,2, 金野 達也3 (1.東京湾岸リハビリテーション病院, 2.東京都立大学大学院人間健康科学研究科作業療法科学域博士前期課程, 3.東京都立大学大学院人間健康科学研究科)

[背景]:作業療法において,個別的な目的や価値を持つ作業に焦点を当てた目標を協業して設定することが重要視されているものの,臨床現場では,心身機能や障害に焦点を当てた機能的な目標が多く設定されている(Leachら,2010;Benjaminら,2008).特に,回復期脳卒中者との目標設定において,機能回復だけでなく,退院後生活を見据えた支援も必要である.そのため,回復期の作業療法士は,機能回復と作業獲得のバランスに配慮する必要があり,脳卒中者と作業療法士との関係性構築や,作業に焦点を当てた目標設定に難渋する場合がある(嶋田ら,2021;内藤ら,2017).しかし,回復期脳卒中者の機能的な目標の希望に対して,回復期の作業療法士が,実際にどのような関わりをしているのかという知見は報告されていない.
[目的]:本研究の目的は,回復期リハビリテーション病棟に従事する作業療法士が,機能的な目標を希望する脳卒中者と共に,作業に焦点を当てた目標を設定するまでの関わりとプロセスに関する知見を得ることである.
[方法]:修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによる質的研究法を採用した.対象者は,回復期リハビリテーション病棟において実践経験のある作業療法士10名(平均年齢33.6歳,平均経験年数10.6年,回復期病棟平均勤務年数7.6年)であった.選定基準として,脳卒中者と共に作業に焦点を当てた目標を設定した経験が推察される内容について,論文投稿または学会発表の経験を有する者とした.同意の得られた者にオンライン形式の半構造化インタビューを実施し,録音したデータから逐語録を作成した.逐語録から分析ワークシートを用いて,概念・サブカテゴリー・カテゴリー・コアカテゴリーを生成し,それらの関連性について目的相関的飽和に至るまで分析を実施した.対象者に最終的な結果の確認を依頼し,全員から納得を得た.本研究は研究倫理委員会の承認を得て実施した.
[結果]:データから33の概念と16のサブカテゴリー(以下,〈 〉),9のカテゴリー(以下,【 】)が抽出された.機能的な目標を希望する脳卒中者と共に作業に焦点を当てた目標を設定するまでの関わりは,【作業療法士的立場の共有】や【作業に関する情報収集】といった導入から,【人間関係としての協調】を優先し,慎重な【作業を話し合える信頼関係作り】に努め,【目標となる作業への導き】を示しつつ【目標となる作業に気付くきっかけ作り】を行い,【目標となる作業の継続的適切化】を図っていた.さらに,脳卒中者と作業療法士との関係性によって,導入準備・信頼関係作り・契機探索・目標調整のプロセスが存在することが示され,その中でも信頼関係作りと契機探索は現象の中心となる関わりのプロセスであった.
[考察]:機能的な目標を希望する脳卒中者と共に,作業に焦点を当てた目標を設定するにあたり,介入初期のタイミングでは,無理に目標を設定しようとせずに,【作業を話し合える信頼関係作り】を重視することは,作業に焦点を当てた目標設定に繋がる効率的な関わりであることが示唆された.また,契機探索のプロセスでは【目標となる作業に気付くきっかけ作り】として,作業と機能の側面からそれぞれ見通しを共有する関わりに加え,<作業−機能の一体感の共有>を通して,作業と機能の理解を,対立関係から繋がりのある協力関係へと変換するような関わりも必要であった.本研究結果は,作業に焦点を当てた目標を設定する際の有益な手がかりとして,臨床実践に適応可能であると考えられる.