第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-1] 一般演題:脳血管疾患等 1

2024年11月9日(土) 12:10 〜 13:10 C会場 (107・108)

座長:片桐 一敏(医療法人 喬成会 花川病院 リハビリテーション部)

[OA-1-3] 脳卒中患者の回復期リハビリテーション病院退院時におけるトイレの動作の自立可否予測

~簡易な情報を用いた決定木分析による検討~

久世 慎太郎1, 岩本 優士2 (1.練馬高野台病院, 2.広島都市学園大学 健康科学リハビリテーション学科)

 回復期リハビリテーションにおける主要な目標の一つとして,患者が日常生活動作(以下ADL)における自立性を回復することである.他職種間における共通目標を設定するためには,個人の経験だけに頼るだけでなく,科学的なエビデンスを参考に患者のADLにおける予後予測をする必要性がある. 
 特に,トイレ動作の自立は患者の自尊心と自宅退院にとって非常に重要な課題とされている.しかし,脳卒中患者の状態や治療開始時期によっては,予後を予測するための情報が限られていることがある.
 このため,入院後に容易に得られる情報とFunctional Independence Measure(FIM)に基づいてトイレ動作の予後を予測できることは,患者や援助者にとって理想的である.
 本研究の目的は,回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)における脳卒中患者のトイレ動作自立性に影響を及ぼす要因を,入院直後の情報から予測し,これに基づいた効果的な治療介入を通じてスムーズな社会復帰を支援することである.この目的を達成するため,簡易な情報を用いて退棟時のトイレ動作の自立可否を判定する決定木分析を実施し,その予測の有効性を検討した.
 対象は令和4年8月1日から令和6年1月31日の間に,当院の回復期リハ病棟を退棟した脳卒中患者212名とした.除外基準は20歳未満の者1名,発症前からトイレ自立していた患者13名,データ欠損者3名を除く195名(男性88名,女107名,年齢75.2±11.4歳)とした.
 本研究は後ろ向きコホート研究として単一施設で実施され,回復期リハビリテーション病棟における患者の属性情報,入院直後のFIM評価,および退院時のトイレ動作の自立性を後方視的に収集・分析した.分析にはChi-squared Automatic Interaction Detector(CHAID)モデルの決定木分析を用いた.CHAIDモデルにおける従属変数として退院時のFIMトイレ動作の自立度(1〜5を非自立,6と7を自立と定義)を設定し,独立変数として年齢,性別,入院日数,FIMの各項目を選定した.
 CHAIDモデルに基づいた結果では,脳卒中患者の退院時のトイレ動作自立に最も影響を与える患者の特性および影響要因として排便コントロールが特定された.入院時の排便コントロールが1点であった患者はトイレ動作が自立した確率は13.5%であった.1点の患者の中でも認知項目の表出が3点以下であった場合トイレ動作の自立確率は5.8%であり,5点以上であった場合のトイレ動作の自立確率は40%であった.排便コントロールが3点から5点であった患者はトイレ動作が自立した確率は76%であり,移動(歩行,車椅子)の点数が2点以上であった場合は87.9%の確率でトイレ動作が自立していた.排便コントロールが6,7点であった患者のトイレ動作自立確率は97.6%であった.CHAIDモデルのAUCは0.836であった.
 本研究における分析から,性別,年齢,入院日数,FIMの各項目を含む決定木モデルを用いることで,脳卒中患者の退院時のトイレ動作の自立性を予測できる可能性を明らかにした.予測モデルにおいて重要な変数として挙げられた排便コントロールや表出は,排泄行為の自立において重要であり,これは括約筋のコントロール能力や,排泄行為実施時の援助者への影響,排泄後の清潔処理能力が必要であるとする既存の研究を裏付けるものである.また,移動項目が選出された理由として,FIMの移動動作が単に移動能力だけでなく,立ち上がりや重心移動といったより複雑な運動技能を必要とするためであると考察する.