第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-10] 一般演題:脳血管疾患等 10 

~シングルケースデザインBAB 法による効果検証~

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 C会場 (107・108)

座長:天野 暁(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科)

[OA-10-1] 生活期脳卒中患者に対するr-TMSと作業療法の併用療法後の上肢麻痺及び使用頻度と脳構造の長期的な変化

前田 正憲1, 片井 聡2 (1.鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院 作業療法科, 2.鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院 脳神経内科)

【はじめに】脳卒中上肢麻痺への介入法の1つに大脳半球運動野への反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)と作業療法(OT)の2週間の併用療法がある.併用療法の短期的な変化については示されているが,その変化が長期的に脳構造へどのような変化を及ぼすのかは分かっていない.
【目的】2週間の併用療法を受けた生活期脳卒中患者を対象に,介入前と半年から1年後の上肢麻痺・生活の中での麻痺手の使用・脳構造の変化及びその関係について調査すること.
【方法】対象者は脳卒中発症後1年以上経過,少なくとも入浴を除くADLが自立,手指の伸展が可能で,2週間のrTMSとOTの併用療法プログラムを受けた10名(麻痺側は右が8名,左が2名). rTMSは平日のみで非損傷側大脳半球一次運動野手指領域に対し刺激頻度は1Hz,20分間を医師により午前・午後の2回実施.OTはrTMSの後に1時間ずつの計2時間,休日は1時間実施した.OTでは関節可動域訓練,上肢麻痺改善に向けた神経筋促通療法等の運動療法,お手玉や木片などの物品を使用した操作練習,患者が麻痺側上肢を使用して行いたい生活上の動作の直接的練習を行った.脳構造画像は介入前及び半年から1年後の間(フォローアップ)に撮像され,3次元T1強調画像を使用した.脳画像の解析ソフトはStatistical Parametric Mapping を使用した.解析の手順としては,左片麻痺患者が2例いたため,脳画像を反転させ全例左側の損傷として扱った.次にVoxel-based Morphometry を用いて灰白質画像を作成した.その画像を元に脳の容積の相対的な変化率を求めることを目的としてフォローアップ時の画像から介入前の画像を引いたものを分子,フォローアップと介入前の画像をたしたものを分母として計算し,対称パーセント変化画像(変化画像)を作成した.臨床上の評価については,脳構造画像を撮像された日に評価したFugl-meyer assessmentの上肢項目(FMA),Motor Activity Logの使用頻度(MAL-A)及び動作の質(MAL-Q)を用いた.統計解析は,変化画像は1標本t検定,FMA及びMALの介入前からフォローアップまでの変化量と変化画像の相関に関しては,一般化線形モデルに組み込み解析した.ボクセルレベルの有意水準はp<0.001(uncorrected)とした.なお本研究は,対象者への同意及び当院倫理委員会の承認を得ている.
【結果】対象者の介入前からフォローアップまでの期間の平均は244.3±71.4日であった. 介入前及びフォローアップのFMAはそれぞれ35.6±16.7,36.9±16.0,同じくMAL-Aは0.59±0.70,0.87±1.17,MAL-Qは0.58±0.71,0.89±1.06であった.介入前とフォローアップとの比較で容積が増えた部位はなし,減少した部位は右縁上回,右舌状回であった. FMAの変化量と脳容積の変化の間で有意な正の相関がみられた脳の部位はなかった.MAL-Aの変化量と有意な正の相関が得られた脳の部位は右楔前部,右角回,左上頭頂小葉,同じくMAL-Qの変化量とは左上頭頂小葉であった.
【考察】脳の容積が減少した部位である右縁上回及び舌状回は自己や他者の運動を観察した際などに賦活することがいわれている.一方,評価指標の変化量と脳灰白質の容積の変化については MAL-Aでは右角回,右楔前部,左上頭頂小葉,MAL-Qでも左上頭頂小葉と正の相関があり,それらの部位は運動のイメージや空間的な注意などとの関与が示唆されており,併用療法を起点として日常生活で麻痺側上肢をどのように使うかなど自身で取り組んだ結果,関連の脳灰白質の容積減少が抑えられた可能性がある.今回は探索的に脳構造の変化及び臨床指標と関係してくる脳部位について調査したため,脳画像解析の際に多重比較の補正等は行えておらず,今後の課題である.