第58回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-10] 一般演題:脳血管疾患等 10 

~シングルケースデザインBAB 法による効果検証~

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM C会場 (107・108)

座長:天野 暁(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科)

[OA-10-2] 上肢痙縮に対するボツリヌス療法への反復末梢磁気刺激併用の試み

伊藤 僚嘉1, 藤村 健太2, 伊藤 翔太1, 前田 寛文3, 加賀谷 斉3,4 (1.藤田医科大学病院 リハビリテーション部, 2.藤田医科大学 保健衛生学部リハビリテーション学科, 3.藤田医科大学 医学部リハビリテーション医学Ⅰ講座, 4.国立長寿医療研究センター リハビリテーション科部)

【はじめに】
ボツリヌス毒素療法(以下,BTX療法)は脳卒中治療ガイドライン2021で推奨度A,エビデンスレベル高とされる痙縮の有効な治療法である.その効果の持続や拡大にはリハビリテーション(以下,リハビリ)の継続が推奨され,様々な併用療法が報告されている.近年,新たな技術として注目される末梢磁気刺激(peripheral magnetic stimulation:以下,PMS)は,痙縮への改善効果が報告されている(Pan JX et al, 2022).しかし,BTX療法後にPMSを併用したとの報告は見当たらない.
本研究の目的は上肢痙縮に対するBTX療法後に反復末梢磁気刺激(以下,rPMS)を併用したリハの可能性を検証することである.
【方法】
左皮質下出血により重度右片麻痺と上肢痙縮を呈した40歳代の女性を対象とした.発症後7か月以降,半年に1回の頻度でBTX療法を実施し,週2回の外来リハビリを継続していた.発症後2,535日における身体機能はStroke Impairment Assessment Set 上肢運動項目(以下,SIAS-m) 2-1A,Fugl-Meyer Assessment 上肢項目(以下,FMA) 20/66,Modified Ashworth Scale (以下,MAS) 肘屈筋1+,手屈筋2,PIP屈筋3,DIP屈筋1+であった.なお,本研究は藤田医科大学臨床研究審査委員会の承認を得て特定臨床研究として実施し,対象者から書面でインフォームドコンセントを得た.
発症後2,535日から行われた連続する2回(通算17,18回目)のBTX療法後に2条件のrPMS介入を実施した.1回目(A期)は外来リハビリでrPMSを用いた上肢機能訓練を実施した.rPMSには末梢磁気刺激装置(Pathleader,IFG社)を使用し,周波数30Hz,on/off時間=2/3secにて,痙縮筋の拮抗筋である手・手指伸筋群の自動運動に合わせて6,000発刺激した.またホームプログラムを導入し,ストレッチや屈伸運動を自己にて毎日行うようにした.2回目(B期)はホームプログラムにウェアラブル型のrPMS機器の使用を導入した.痙縮筋である肘屈筋群,手・手指屈筋群にそれぞれ30分間刺激し,その直後にストレッチや屈伸運動を行うようにした.なお,外来リハビリではrPMSを用いた上肢機能訓練を行わなかった.各期におけるrPMS介入はBTX療法後12週まで継続した.評価項目はSIAS-m,FMA,MASとし,BTX療法前,実施後2週,6週,12週における経過をrPMS介入前の2回(通算15,16回目)のBTX療法後の経過と比較した.
【結果】
全てのBTX療法は大胸筋25単位,上腕二頭筋100単位,上腕筋50単位,腕橈骨筋25単位,橈側手根屈筋50単位,尺側手根屈筋25単位,浅指屈筋100単位に実施された.またrPMSによる有害事象はなかった.
rPMS介入前と比較し,A期はBTX療法後のPIP屈筋のMAS軽減が3か月まで持続した.B期は肘屈筋と手屈筋のMAS軽減が3か月まで持続した.A期,B期のどちらにおいてもSIAS-mとFMAに明らかな変化はみられなかった.
【考察】
慢性期脳卒中片麻痺患者を対象にBTX療法後にrPMSを併用したリハビリを導入し,その経過を比較した.その結果,rPMSを用いた拮抗筋への反復運動や痙縮筋へのrPMSがBTX療法の効果を持続させる可能性が示唆された.今後,運動麻痺の重症度や直接的な介入頻度など,条件の異なる患者についてもrPMS併用の効果を検証していく.