[OA-10-4] 脳卒中後の肩関節亜脱臼予防に対する反復末梢磁気刺激の効果
【はじめに】末梢神経磁気刺激は電気に比べて皮膚の侵害受容器を直接刺激しないため疼痛が少なく,高強度の刺激が可能である (加賀谷,2022).今回,外傷性頸髄損傷の完全四肢麻痺者に対して反復性末梢磁気刺激(以下,rPMS)を麻痺手へ施行し,シングルケースデザイン(BAB法)にて効果を検証した.本発表に対してご本人から同意を得ている.
【症例紹介】20代男性.海で飛び込み受傷(ASIA:A).約1ヶ月半後,当院入院.Zancolli分類:右C6BⅢ,左C8A.徒手筋力検査(MMT,右/左)は,長母指伸筋(0/2),長母指屈筋(0/2),長母指外転筋(0/0),母指対立筋(0/0),母指内転筋(0/4),総指伸筋(0/4),浅指屈筋(0/0),深指屈筋(0/2),背側骨間筋(0/0),小指外転筋(0/0).指尖手掌距離(TPD,右/左cm)は,Ⅱ指3.0/2.0,Ⅲ指2.8/0.7,Ⅳ指1.5/0,Ⅴ指1.0/0.簡易上肢機能検査(STEF,右/左)14点/43点.入院時ADL:食事(自助具)のみ自立,その他全介助.脊髄障害自立度評価法(SCIM,17点).
【介入方法】BAB法にてA期は標準的作業療法(関節可動域,リラクゼーション,ADL訓練),B期は開始時にrPMSを実施してから標準的作業療法を実施.開始時にMMT,TPD,STEFを計測した.各期間を4週とし磁気刺激装置はPath Leader(IFG社)を使用.B期でのrPMSは4-5/週の頻度で,周波数30Hz,強度70,on2秒-off2秒を1回とし,随意運動を促しながら標的筋へ30回施行.標的筋は,左手指は把握力やつまみ機能の向上を目的に浅指屈筋,母指対立筋,背側骨間筋.右手指は把握や側腹つまみの獲得を目的に,浅指屈筋,母指対立筋,母指内転筋とした.
【結果】B1期は右手指はⅡ指の随意性が僅かに向上してTPDが短縮し,STEFは把握や一部つまみ機能が改善し12点向上.左上肢はMMTやTPDで変化はなかったが,把握やつまみ機能に改善が見られSTEF得点が19点向上.病棟ADL自立度はSCIMが45点となり,自己導尿で左手指機能を生かした動作が観察された.症例から「左手指は別々に,母指は内側に動かしやすくなった」「右手指は握りやすいが,指が分離して動かない」との感想があった.
A期は左右ともにMMTに変化はなく右手指はⅢ-Ⅴ指ともTPDが短縮したが,屈筋の緊張や可動域制限が目立つようになった.左右ともSTEFが左7点/右3点と低下した.
B2期は左手指屈筋のMMTが向上し,TPDにて全指手掌接地可能となった.STEFも18点向上し,巧緻性や動作スピードが改善.右手指はMMTやTPDに変化なく,A期同様に徒手整復可能な程度の屈曲拘縮が目立つようになったが,若干把持や動作スピードが改善し,STEFが5点向上.右母指の筋は左母指に比べてrPMSへの反応は良いが,症例自身は動く感覚を感じていなかった.
【考察】 rPMS を用いたBAB法により,左右手指ともにB1/2期はA期に比べて把握やつまみ機能が改善した.特に左手指はrPMS 実施後のSTEFが向上し,B1期では左手指の質的な変化を症例自身が実感し,B2期では手指筋力や自動運動範囲が拡大した.一方,右手指は筋力に変化はなく,自動運動範囲の改善は僅かであったがSTEFが向上し,症例もB1期終了時に握りやすさを実感した.右手指のテノデーシスによる把握は,ADL自立度が向上したことを踏まえると代償動作の習熟がSTEFに影響したとも考える.また経過とともに右手指の屈曲拘縮が目立つのは,rPMSにより右手指屈筋群の筋緊張が高まった結果,把持機能を高めた可能もある.従って完全頸髄損傷による麻痺手へのrPMSは,高強度な刺激により,不全要素のある麻痺筋に対しては随意性や筋力の向上が期待でき,完全麻痺の筋に対しては筋緊張の変化により,物品操作に質的な変化をもたらす可能性が示唆された.
【症例紹介】20代男性.海で飛び込み受傷(ASIA:A).約1ヶ月半後,当院入院.Zancolli分類:右C6BⅢ,左C8A.徒手筋力検査(MMT,右/左)は,長母指伸筋(0/2),長母指屈筋(0/2),長母指外転筋(0/0),母指対立筋(0/0),母指内転筋(0/4),総指伸筋(0/4),浅指屈筋(0/0),深指屈筋(0/2),背側骨間筋(0/0),小指外転筋(0/0).指尖手掌距離(TPD,右/左cm)は,Ⅱ指3.0/2.0,Ⅲ指2.8/0.7,Ⅳ指1.5/0,Ⅴ指1.0/0.簡易上肢機能検査(STEF,右/左)14点/43点.入院時ADL:食事(自助具)のみ自立,その他全介助.脊髄障害自立度評価法(SCIM,17点).
【介入方法】BAB法にてA期は標準的作業療法(関節可動域,リラクゼーション,ADL訓練),B期は開始時にrPMSを実施してから標準的作業療法を実施.開始時にMMT,TPD,STEFを計測した.各期間を4週とし磁気刺激装置はPath Leader(IFG社)を使用.B期でのrPMSは4-5/週の頻度で,周波数30Hz,強度70,on2秒-off2秒を1回とし,随意運動を促しながら標的筋へ30回施行.標的筋は,左手指は把握力やつまみ機能の向上を目的に浅指屈筋,母指対立筋,背側骨間筋.右手指は把握や側腹つまみの獲得を目的に,浅指屈筋,母指対立筋,母指内転筋とした.
【結果】B1期は右手指はⅡ指の随意性が僅かに向上してTPDが短縮し,STEFは把握や一部つまみ機能が改善し12点向上.左上肢はMMTやTPDで変化はなかったが,把握やつまみ機能に改善が見られSTEF得点が19点向上.病棟ADL自立度はSCIMが45点となり,自己導尿で左手指機能を生かした動作が観察された.症例から「左手指は別々に,母指は内側に動かしやすくなった」「右手指は握りやすいが,指が分離して動かない」との感想があった.
A期は左右ともにMMTに変化はなく右手指はⅢ-Ⅴ指ともTPDが短縮したが,屈筋の緊張や可動域制限が目立つようになった.左右ともSTEFが左7点/右3点と低下した.
B2期は左手指屈筋のMMTが向上し,TPDにて全指手掌接地可能となった.STEFも18点向上し,巧緻性や動作スピードが改善.右手指はMMTやTPDに変化なく,A期同様に徒手整復可能な程度の屈曲拘縮が目立つようになったが,若干把持や動作スピードが改善し,STEFが5点向上.右母指の筋は左母指に比べてrPMSへの反応は良いが,症例自身は動く感覚を感じていなかった.
【考察】 rPMS を用いたBAB法により,左右手指ともにB1/2期はA期に比べて把握やつまみ機能が改善した.特に左手指はrPMS 実施後のSTEFが向上し,B1期では左手指の質的な変化を症例自身が実感し,B2期では手指筋力や自動運動範囲が拡大した.一方,右手指は筋力に変化はなく,自動運動範囲の改善は僅かであったがSTEFが向上し,症例もB1期終了時に握りやすさを実感した.右手指のテノデーシスによる把握は,ADL自立度が向上したことを踏まえると代償動作の習熟がSTEFに影響したとも考える.また経過とともに右手指の屈曲拘縮が目立つのは,rPMSにより右手指屈筋群の筋緊張が高まった結果,把持機能を高めた可能もある.従って完全頸髄損傷による麻痺手へのrPMSは,高強度な刺激により,不全要素のある麻痺筋に対しては随意性や筋力の向上が期待でき,完全麻痺の筋に対しては筋緊張の変化により,物品操作に質的な変化をもたらす可能性が示唆された.