第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-11] 一般演題:脳血管疾患等 11

2024年11月10日(日) 09:40 〜 10:40 B会場 (中ホール)

座長:光永 済(長崎大学病院 )

[OA-11-1] 急性軽症脳梗塞患者における発症6ヶ月後の高次生活機能と健康統制感との関連

~前向きコホート研究~

高畑 幸弘1, 石山 大介1, 青柳 陽一郎1, 青木 淳哉2, 木村 和美3 (1.日本医科大学付属病院 リハビリテーション科, 2.日本医科大学多摩永山病院 脳神経内科, 3.日本医科大学付属病院 脳卒中集中治療科)

【序論】脳卒中のなかでも脳梗塞は再発率が高く,軽症であっても危険因子の管理や生活習慣の是正など再発予防が重要となる.看護師・保健師による再発予防教育では,病気や健康行動に関する原因帰属を個人の信念体系から捉えることが重要とされており,その評価指標として健康統制感が用いられている.しかし,先行研究の多くは対象者の自己管理行動に主眼が置かれており,自宅退院後の社会参加など高次生活機能との関連について検討した報告は渉猟しうる限りない.
【目的】本研究の目的は,急性軽症脳梗塞患者を対象として,発症6ヶ月後の高次生活機能に関連する因子を多角的に検討するとともに,健康統制感との関連を明らかにすることである.
【方法】対象は,2021年7月から2023年3月までに当院脳卒中集中治療科に入院した軽症脳梗塞患者116名とした.包含基準は,ベースライン(以下,退院時)におけるNational Institutes of Health Stroke Scale(以下,NIHSS)が5点以下,modified Rankin Scale(以下,mRS)が2点以下,MMSE-Jの合計得点が24点以上,転帰が自宅退院の者とし,日本版主観的健康統制感尺度(Japanese version of the Health Locus of Control Scales;以下,JHLC)に欠損がある者は除外した.追跡調査は郵送法による質問紙調査とし,脳梗塞発症6ヶ月後に実施した.退院時における調査項目は,基本情報と機能評価とし,基本情報(年齢,性別,発症前mRS,他7項目)は診療録から取得した.機能評価は,前述のNIHSS,JHLCに加えて,Functional Independence and Difficulty Scale,高齢者用抑うつ尺度短縮版を用いた.追跡調査では,高次生活機能の指標として老研式活動能力指標(Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology Index of Competence;以下,TMIG-IC)を用いた.統計学的解析は,先行研究(高木大輔ら,2012)に準じて,JHLCの下位尺度得点から「内的統制(原因帰属が自分自身)」「外的統制(原因帰属が自分以外の家族,医療従事者,偶然,超自然)」「両統制」の3群に分類し,各調査項目について比較検討した.また,強制投入法による重回帰分析では,従属変数を発症6ヶ月後のTMIG-IC総得点,独立変数を健康統制感による分類,年齢,性別,発症前mRSの得点,初診時NIHSSの総得点とした.なお,本研究は人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき,倫理委員会の承認(B-2021-362)を得て実施した.
【結果】解析対象者は75名(内的統制群24名,外的統制群38名,両統制群13名)であり,質問紙未返送者とTMIG-ICに欠損がある者は除外した.平均年齢は68.7±12.7歳,女性は25名(33.3%)であった.群間比較の結果,発症6ヶ月後のTMIG-IC総得点と下位尺度の社会的役割の得点は,両統制群より内的統制群が有意に高かった(p<.05).重回帰分析では,TMIG-IC総得点に関連する因子として,健康統制感(両統制を基準とした場合)の内的統制(β=.367,p=.019)と外的統制(β=.344,p=.030),性別(女性:β=.228,p=.046)が抽出された.
【考察】本研究の結果から,急性軽症脳梗塞患者における発症6ヶ月後の高次生活機能は,性別,退院時における健康統制感と関連することが明らかとなった.健康統制感については,病気や健康行動に関する原因帰属が内的・外的統制の者ほど,高次生活機能の自立度に好影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,原因帰属が両統制の者は,内的統制の者より社会的役割が有意に低く,将来的に閉じこもり(新開省二ら,2005)や要介護状態(Fujiwara Yら,2003)に陥りやすいことが推察される.しかし,両統制の解釈については,今後更なる検討が必要である.