[OA-11-4] 小脳性運動失調患者に対し重錘負荷を用いた介入がIADLの拡大に繋がった一症例
【はじめに】運動失調に対するリハビリテーションには重錘や弾性緊縛帯を用いた介入が行われてきたが,日常生活場面で利用している報告は少ない.今回,小脳性運動失調患者に対し重錘を装具として活用し,趣味活動としてネット手芸動作の獲得に至ったため,重錘負荷の使用意義について報告する.対象者には本学会にて発表することについて同意を書面にて得ている.
【症例紹介】80代前半の女性である.小脳梗塞の診断後に出血性梗塞(左半球前葉〜虫部)となり開頭血腫除去術を施行(day1),急性期治療後に当院へ転院(day36)した.翌日から作業療法を開始し,心身機能,ADL向上を目的に実施(day37〜104)した.この時期に退院の方向性が施設に決まり,退院先施設での活動性向上,IADL拡大を目的に,ネット手芸を導入する運びとなった.
【ネット手芸導入前の評価 day105〜115】身体機能面は,左側・体幹の運動失調を主症状としScale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)19.5点,握力が右18.5左15.5kg,著明な麻痺は認めなかった.認知機能面は全般的な低下を認め,Mini Mental State Examination(以下MMSE)17点だった.左上肢評価は,適切な重錘負荷量を判別するために,重錘負荷なし・500g・1kg・1.5kgに区分して実施した.アウトカムは,Simple Test for Evaluating Hand Function(以下STEF)と,企図振戦の程度を比較する目的にジェンガを積み重ねた個数(ジェンガサイズD25×W75×H15mm)を評価した.左上肢のSTEFは,重錘負荷なし35点(右83点),500gで34点,1kgで42点,1.5kgで26点だった.ジェンガを積み重ねた個数は,重錘負荷なし3個,500gで4個,1kgで10個,1.5kgで10個だった.ネット手芸の動作分析は,重錘負荷なしで右手に針と左手にネットを把持した場合には,左上肢の運動失調によりネットの固定が難しく針を通すことが困難だった.認知機能低下により模様の理解が不十分なため針を通す位置の指示も必要だった.
【介入経過 day120〜190】作業療法介入時にネット手芸を20〜30分実施した.上肢評価結果から,重錘重量は1kgとし左前腕に装着した.重錘は「商品名:ウェイト500g手・足首兼用,株式会社大創産業」を2個使用した.左上肢の運動失調は重錘負荷により軽減し,ネットに針を通す動作は見守りで可能だった.認知機能に合わせ模様を簡易に設定し,針を通す位置の指示は緩徐に減少した.重錘は自分で装着が可能になった.道具の準備などを含め作業全体では見守り以上の介助が残存したため,病棟生活場面への移行はできなかった.
【最終評価 day184〜190】身体機能面は,運動失調はSARA10点となり改善を示したが,上肢能力は著変なく,STEFは重錘負荷なしで左34点(右90点),握力は右20左19kgだった.認知機能面も著変なくMMSE20点だった.重錘負荷なしでは左手でのネットの安定した保持は困難だったが,重錘負荷1kgにより失調症状を抑えて保持が可能になった.認知機能低下による作業手順理解の不十分さは残った.
【考察】重錘負荷により補助手として左上肢を活用できた.上肢評価結果から重錘は1kgを使用したが,先行研究では200g〜800gを用いていた.重錘負荷による運動失調制御の機序は,感覚フィードバックの増加や運動出力を制限する効果などが考えられている.本症例は先行研究より重量を増加しており,後者の要素が大きいと推察した.重錘の着脱やネット手芸の物品操作は可能だったことから,認知機能が保たれていれば自立できた可能性はあったと考える.IADLの拡大に向けて,日常生活場面での装具としての重錘使用を検討する一助になったと考える.
【症例紹介】80代前半の女性である.小脳梗塞の診断後に出血性梗塞(左半球前葉〜虫部)となり開頭血腫除去術を施行(day1),急性期治療後に当院へ転院(day36)した.翌日から作業療法を開始し,心身機能,ADL向上を目的に実施(day37〜104)した.この時期に退院の方向性が施設に決まり,退院先施設での活動性向上,IADL拡大を目的に,ネット手芸を導入する運びとなった.
【ネット手芸導入前の評価 day105〜115】身体機能面は,左側・体幹の運動失調を主症状としScale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)19.5点,握力が右18.5左15.5kg,著明な麻痺は認めなかった.認知機能面は全般的な低下を認め,Mini Mental State Examination(以下MMSE)17点だった.左上肢評価は,適切な重錘負荷量を判別するために,重錘負荷なし・500g・1kg・1.5kgに区分して実施した.アウトカムは,Simple Test for Evaluating Hand Function(以下STEF)と,企図振戦の程度を比較する目的にジェンガを積み重ねた個数(ジェンガサイズD25×W75×H15mm)を評価した.左上肢のSTEFは,重錘負荷なし35点(右83点),500gで34点,1kgで42点,1.5kgで26点だった.ジェンガを積み重ねた個数は,重錘負荷なし3個,500gで4個,1kgで10個,1.5kgで10個だった.ネット手芸の動作分析は,重錘負荷なしで右手に針と左手にネットを把持した場合には,左上肢の運動失調によりネットの固定が難しく針を通すことが困難だった.認知機能低下により模様の理解が不十分なため針を通す位置の指示も必要だった.
【介入経過 day120〜190】作業療法介入時にネット手芸を20〜30分実施した.上肢評価結果から,重錘重量は1kgとし左前腕に装着した.重錘は「商品名:ウェイト500g手・足首兼用,株式会社大創産業」を2個使用した.左上肢の運動失調は重錘負荷により軽減し,ネットに針を通す動作は見守りで可能だった.認知機能に合わせ模様を簡易に設定し,針を通す位置の指示は緩徐に減少した.重錘は自分で装着が可能になった.道具の準備などを含め作業全体では見守り以上の介助が残存したため,病棟生活場面への移行はできなかった.
【最終評価 day184〜190】身体機能面は,運動失調はSARA10点となり改善を示したが,上肢能力は著変なく,STEFは重錘負荷なしで左34点(右90点),握力は右20左19kgだった.認知機能面も著変なくMMSE20点だった.重錘負荷なしでは左手でのネットの安定した保持は困難だったが,重錘負荷1kgにより失調症状を抑えて保持が可能になった.認知機能低下による作業手順理解の不十分さは残った.
【考察】重錘負荷により補助手として左上肢を活用できた.上肢評価結果から重錘は1kgを使用したが,先行研究では200g〜800gを用いていた.重錘負荷による運動失調制御の機序は,感覚フィードバックの増加や運動出力を制限する効果などが考えられている.本症例は先行研究より重量を増加しており,後者の要素が大きいと推察した.重錘の着脱やネット手芸の物品操作は可能だったことから,認知機能が保たれていれば自立できた可能性はあったと考える.IADLの拡大に向けて,日常生活場面での装具としての重錘使用を検討する一助になったと考える.