第58回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-11] 一般演題:脳血管疾患等 11

Sun. Nov 10, 2024 9:40 AM - 10:40 AM B会場 (中ホール)

座長:光永 済(長崎大学病院 )

[OA-11-5] 失語症を有する症例に対する認知行動療法の試み

井形 恵実, 松本 多正 (公益財団法人健和会 大手町リハビリテーション病院  回復期・通所リハビリテーション科)

【はじめに】 失語症は,言語機能から想定できる実用的コミュニケーションレベルは必ずしも明確ではなく,語用論的能力は比較的保たれ,状況からの予測や判断により言語理解が補われる事も多い(森岡悦子2017).今までの失語症における発表の多くは言語機能に着目されたものが多く,言語機能が失われる事による不安に焦点を当てた研究は散見されない.今回,脳出血後に中等度の聴覚的理解低下・軽度の発話機能低下を呈した失語症症例を担当した.言語障害が生じた事に対する不安が強く,それに対し認知行動療法(以下CBT)を試みた.結果,自身の状況把握やセルフマネジメント,自己環境調整,言語機能向上に至った為報告する.
【事例紹介】 40歳代女性.X年Y月左側頭葉皮質下出血発症,開頭血種除去術施行.Y +1ヶ月後,リハビリ目的の為,当院転院.初期評価では,Brunnstrom Stage ALL Ⅵ.FIM 97/128点(運動81点,認知16点).失語症を呈し,MMSE23/30,WMS-Rでは言語性記憶59,視覚性記憶118であり,SLTAでは,口頭命令に従う・文の復唱項目で2割,動作の説明項目で5割の正答率で,喚語困難や聴覚的理解の低下を認めた.
【作業療法計画】 STと連携の元,本人の保たれている言語機能を利用しながら,負担が生じない程度の課題難易度調整を工夫し,CBTを主体としたセルフマネジメントの指導とコミュニケーション訓練を中心に実施した.
【経過と結果】 入院時,書字・読解における単語や短文の言語機能は比較的良好であるも,語想起が難しい状況であった.この時期COPMにおける遂行度は「書く:4」「聴く:4」「話す:4」「読む:1」であり,実際のコミュニケーション能力と本人の感じ方に乖離が見られた.CBTでは,毎日振り返りシートを使用し,リハ場面や他者とのコミュニケーション場面での自身の状態把握を明確に示す為,記号で区分けし,その後,取り組むべき課題や,現実対応力の整理を行っていった.同時にOTは,言語能力に合わせた,ホームワークの提示も実施した.
Y+2ヶ月後,自発的な取り組み(学習動画視聴とノートへの記載・髪の結び方を覚え他者の髪を結うなど)や,対人交流も増えてきた.他者交流において「大丈夫な気がする」と話し,この時期のCOPMにおける遂行度は「書く:5」「聴く:6」「話す:6」「読む:3」となった.情報処理容量がオーバーした際には,ジョギングに行くなどの切り替えを行うようになった.
Y+3ヶ月後,退院が決定し,退院後の生活における自身の考えや目標を具体的に提示する場面が増えた.リハ場面では,家庭生活の実践に繋がる練習を増やすと共に,課題の共有と対策について話し合う事で,自身で代償手段の確認や対策を立てる事が可能となった.COPMの遂行度では「書く:7.5」「聴く:7.5」「話す:7.5」「読む:6」となった.SLTAでは口頭命令に従うで7割・文の復唱項目で4割・動作の説明項目で9割の正答率と向上を認めた.
【考察】 言語は常に生活の中にあり,コミュニケーション以外にも自らの思考プロセスにも利用している(森岡周2020)と,されており,生活や対人交流において言語の役割は大きく,失語症患者にとって言語機能低下による不安は大きいと考える.今回CBTを通し,自身の能力と課題や現実対応力の整理を行い,言語的環境調整の方法を自身で工夫し導き出せるようになった事で,思考の整理・言語機能向上,不安解消に繋がったと考える.CBTは失語症の改善や自身での環境調整に重要な役割の一助となると考えられる.
【倫理理的配慮,説明と同意】対象にはヘルシンキ宣言に基づき本報告の主旨を口頭及び文章にて十分に説明し同意を得た.また,開示すべきCOIはない.