[OA-12-1] 後天性眼球運動障害に対する没入型バーチャルリアリティを用いた眼球運動直接的アプローチの効果
~ケースレポート~
【目的】
脳損傷後の後天性眼球運動障害は主に脳幹部の病変で出現しやすいと言われており,日常生活に不自由が生じ退院後の生活にも支障をきたすことが報告されている.眼球運動障害に対する一般的な治療方法として片眼遮断や頭位変換による代償法などが挙げられるが,眼球運動に対する直接的な訓練の報告は少ない.
我々は半側空間無視(以下,USN)や注意障害を呈した患者に対して没入型バーチャルリアリティ(以下,iVR)を用い,視覚探索課題や視覚誘導課題のシステム開発を行い,USNに対する評価や治療が有用であることを報告してきた.そこで今回,我々が開発したiVRの治療システムを眼球運動障害患者に応用し,一定の効果が得られたため以下に報告する.なお,発表に際して症例に対し文書にて十分な説明を行い,同意を得た.
【方法】
本症例は脳底動脈塞栓症を呈し,82病日経過した70歳代男性である.本症例は麻痺視の外転運動が著明に障害されていたが頚部や体幹の動きでの代償によりADLは獲得していた.しかし,依然として眼球運動障害は残存しており,日常生活を送るうえで疲労の訴えが頻回に聞かれており「疲れず楽に生活が送れるようになりたい」と希望されていた.
介入は,iVRの治療システムを用いて1日20分,10日間の治療をし前後比較を行った.今回用いた治療システムは,視覚誘導映像により非無視側の視覚刺激を徐々にブラックアウトしていき,見える領域を無視側へ拡大させていくことで注意を無視側に誘導するシステムである.頸部や体幹での代償の動きを治療者が固定し視線の動きのみ反復して行った.評価は,3次元空間内で視認できる領域を描出することが可能な評価システムである3D Ball Test,眼球運動の質的評価として種別評価,日常生活に対する困難感・疲労感の主観評価をVASを用いて行った.
【結果】
3D Ball Testは頸部固定での認識割合は56%から100%と向上した.眼球運動の種別評価では衝動性眼球運動と滑動性眼球運動に障害が認められたが,介入後改善が見られた.日常生活に対する困難感・疲労感のVASは困難感79㎜から13㎜,疲労感72㎜から14㎜と大幅な変化を認めた.
【考察】
今回,後天性眼球運動障害に対してiVRの視覚誘導課題を行った結果,頸部固定での認識割合,眼球運動の種別評価,VASに変化がみられた.要因として,iVRを用い定量的に眼球の水平移動を反復できたことに加え,視覚誘導のスピードも調整可能なため症例に適した負荷量で訓練を行うことができたことも効果的であったと考えた.
一般的に眼球運動障害に対する直接的なアプローチは,患者の疲労感も強く難渋するケースも多いがiVRを用いたことで外界の視覚情報を遮断し没入してトレーニングが行える環境を作り出せることも本結果に影響したのではないかと考えた.後天性眼球運動障害を呈した症例の最終目標は両眼単一視野を獲得し日常生活での不自由がなくなることだとされているが直接的に眼球運動に対する治療は未だ確立されていない.今回の結果より,iVRを用いた眼球運動障害に対する直接訓練は視野角の拡大,両眼単一視野の獲得に有効な可能性が示唆された.
脳損傷後の後天性眼球運動障害は主に脳幹部の病変で出現しやすいと言われており,日常生活に不自由が生じ退院後の生活にも支障をきたすことが報告されている.眼球運動障害に対する一般的な治療方法として片眼遮断や頭位変換による代償法などが挙げられるが,眼球運動に対する直接的な訓練の報告は少ない.
我々は半側空間無視(以下,USN)や注意障害を呈した患者に対して没入型バーチャルリアリティ(以下,iVR)を用い,視覚探索課題や視覚誘導課題のシステム開発を行い,USNに対する評価や治療が有用であることを報告してきた.そこで今回,我々が開発したiVRの治療システムを眼球運動障害患者に応用し,一定の効果が得られたため以下に報告する.なお,発表に際して症例に対し文書にて十分な説明を行い,同意を得た.
【方法】
本症例は脳底動脈塞栓症を呈し,82病日経過した70歳代男性である.本症例は麻痺視の外転運動が著明に障害されていたが頚部や体幹の動きでの代償によりADLは獲得していた.しかし,依然として眼球運動障害は残存しており,日常生活を送るうえで疲労の訴えが頻回に聞かれており「疲れず楽に生活が送れるようになりたい」と希望されていた.
介入は,iVRの治療システムを用いて1日20分,10日間の治療をし前後比較を行った.今回用いた治療システムは,視覚誘導映像により非無視側の視覚刺激を徐々にブラックアウトしていき,見える領域を無視側へ拡大させていくことで注意を無視側に誘導するシステムである.頸部や体幹での代償の動きを治療者が固定し視線の動きのみ反復して行った.評価は,3次元空間内で視認できる領域を描出することが可能な評価システムである3D Ball Test,眼球運動の質的評価として種別評価,日常生活に対する困難感・疲労感の主観評価をVASを用いて行った.
【結果】
3D Ball Testは頸部固定での認識割合は56%から100%と向上した.眼球運動の種別評価では衝動性眼球運動と滑動性眼球運動に障害が認められたが,介入後改善が見られた.日常生活に対する困難感・疲労感のVASは困難感79㎜から13㎜,疲労感72㎜から14㎜と大幅な変化を認めた.
【考察】
今回,後天性眼球運動障害に対してiVRの視覚誘導課題を行った結果,頸部固定での認識割合,眼球運動の種別評価,VASに変化がみられた.要因として,iVRを用い定量的に眼球の水平移動を反復できたことに加え,視覚誘導のスピードも調整可能なため症例に適した負荷量で訓練を行うことができたことも効果的であったと考えた.
一般的に眼球運動障害に対する直接的なアプローチは,患者の疲労感も強く難渋するケースも多いがiVRを用いたことで外界の視覚情報を遮断し没入してトレーニングが行える環境を作り出せることも本結果に影響したのではないかと考えた.後天性眼球運動障害を呈した症例の最終目標は両眼単一視野を獲得し日常生活での不自由がなくなることだとされているが直接的に眼球運動に対する治療は未だ確立されていない.今回の結果より,iVRを用いた眼球運動障害に対する直接訓練は視野角の拡大,両眼単一視野の獲得に有効な可能性が示唆された.