[OA-12-2] Virtual Reality(VR)を用いたリハビリテーションにより慢性期小脳失調の改善を認めた事例
【はじめに】近年,Virtual Reality(以下VR)を用いたリハビリテーション(以下リハ)が注目され,その1つであるmediVR社製のmediVRカグラ(以下VRカグラ)は運動失調や歩行,上肢,認知機能障害,および疼痛の治療に応用が進んでおり,その高い治療効果に期待が集まっている(原,2022).VRカグラを用いたリハは,VR空間上に表示される対象に向かって手を伸ばす点推定を繰り返すことによって脳の可塑性を刺激し,脳内の情報伝達処理過程が整理されると考えられている(原,2022).今回, VRカグラを用いたリハにより,小脳失調の改善を認めた慢性期事例を経験したため報告する.なお,本報告に際して対象者には書面にて説明し同意を得ている.
【事例】60代の女性で,診断名は転移性左小脳腫瘍,発症より5年以上経過し,放射線壊死を左小脳脚に認めた.左側に運動失調が残存し,移動は屋内伝い歩き,屋外は介助歩行であった.ADLは自立で家事動作は辛うじて自立していたが,左上肢の生活での使用はなかった.X-4月にリハ目的で入院.入院期間は17日間で通常の理学療法(以下PT),作業療法(以下OT)を1日に各60分程度(PTは1180分,OTは1080分の計2260分)実施.結果(入院時→退院時)は,簡易上肢機能検査(以下STEF)は左41→46点,Time up & go test(以下TUG)は14→13秒,Berg Balance Scale(以下BBS)が45→45点で,Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)は最終評価のみで7.5点で,入院時から退院時まで院内は杖歩行見守りで,著名な改善はなかった.VRカグラ導入後のX月に再度リハ目的の入院となった.
【評価】面接では「もう少しちゃんと歩けるようになりたいです.左手はじゃまするのでほとんど使っていません」と発言があった.認知機能は正常,身体機能は上肢優位に左上下肢と体幹に運動失調を認めた.院内は杖歩行見守りで,全身的に緊張が高く,立位・歩行では左手を強く握りこむ様子がみられた.
【介入】VRカグラは1日2回,20分実施.実施後に通常のOTとPTを各40分実施した.
【結果】入院期間は15日でVRカグラは計24回使用した.リハの提供時間はOTを840分,PTを700分,VRカグラは480分で計2020分であった.結果(入院時→退院時)は,STEFは左37→54点,TUGは15.6→8.4秒,BBSは48→56点,SARAは10→7点と改善を認めた.院内は独歩で自立し,全身的な緊張は軽減し,左指を開き,両手を振っての歩行が可能となった,左上肢の日常生活動作への参加がみられ,「左で食器が持てるようになりました.家に帰ってどこまでできるか楽しみです」と発言があった.
【考察】小脳失調は歯状核+上小脳脚あるいは中小脳脚全体の病変は運動機能の予後不良と報告(桑原,1993)されており,本事例も左小脳脚に病変を認め,小脳失調は残存し,X-4月のリハでは明らかな改善を認めなかった.2度の入院を比較すると,入院期間やリハの提供時間には大きな違いはないが,各評価はX月の方が大きく改善し,生活の自立度と本人の満足度も向上した.VRカグラを通常のリハと併用する方が,通常のリハのみよりもより効果的であることを示唆している.
【事例】60代の女性で,診断名は転移性左小脳腫瘍,発症より5年以上経過し,放射線壊死を左小脳脚に認めた.左側に運動失調が残存し,移動は屋内伝い歩き,屋外は介助歩行であった.ADLは自立で家事動作は辛うじて自立していたが,左上肢の生活での使用はなかった.X-4月にリハ目的で入院.入院期間は17日間で通常の理学療法(以下PT),作業療法(以下OT)を1日に各60分程度(PTは1180分,OTは1080分の計2260分)実施.結果(入院時→退院時)は,簡易上肢機能検査(以下STEF)は左41→46点,Time up & go test(以下TUG)は14→13秒,Berg Balance Scale(以下BBS)が45→45点で,Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下SARA)は最終評価のみで7.5点で,入院時から退院時まで院内は杖歩行見守りで,著名な改善はなかった.VRカグラ導入後のX月に再度リハ目的の入院となった.
【評価】面接では「もう少しちゃんと歩けるようになりたいです.左手はじゃまするのでほとんど使っていません」と発言があった.認知機能は正常,身体機能は上肢優位に左上下肢と体幹に運動失調を認めた.院内は杖歩行見守りで,全身的に緊張が高く,立位・歩行では左手を強く握りこむ様子がみられた.
【介入】VRカグラは1日2回,20分実施.実施後に通常のOTとPTを各40分実施した.
【結果】入院期間は15日でVRカグラは計24回使用した.リハの提供時間はOTを840分,PTを700分,VRカグラは480分で計2020分であった.結果(入院時→退院時)は,STEFは左37→54点,TUGは15.6→8.4秒,BBSは48→56点,SARAは10→7点と改善を認めた.院内は独歩で自立し,全身的な緊張は軽減し,左指を開き,両手を振っての歩行が可能となった,左上肢の日常生活動作への参加がみられ,「左で食器が持てるようになりました.家に帰ってどこまでできるか楽しみです」と発言があった.
【考察】小脳失調は歯状核+上小脳脚あるいは中小脳脚全体の病変は運動機能の予後不良と報告(桑原,1993)されており,本事例も左小脳脚に病変を認め,小脳失調は残存し,X-4月のリハでは明らかな改善を認めなかった.2度の入院を比較すると,入院期間やリハの提供時間には大きな違いはないが,各評価はX月の方が大きく改善し,生活の自立度と本人の満足度も向上した.VRカグラを通常のリハと併用する方が,通常のリハのみよりもより効果的であることを示唆している.