第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-12] 一般演題:脳血管疾患等 12 

2024年11月10日(日) 09:40 〜 10:40 C会場 (107・108)

座長:岩波 潤(信州大学 医学部保健学科)

[OA-12-3] Virtual Reality(VR)を用いた介入によって左半側空間無視症例の生活動作の変化を得ることができた一例

谷口 佑香1, 大角 駿介1, 寺田 秀範1, 松山 太士1, 網本 和2 (1.社会医療法人財団新和会 八千代病院 総合リハビリテーションセンター, 2.仙台青葉学院大学 リハビリテーション学科)

【はじめに】左半側空間無視(左USN)の介入として,視覚走査訓練やプリズム順応は目標志向性注意課題であり,日常生活レベルの汎化の十分な報告がない.USNは自分の左側を無視することが多く,髭の剃り残し等の自己身体空間(Personal space)・手に届く空間(Peri personal space)である近位空間の無視と,同室の部屋にいる人に気づかない等の遠位空間(Extra personal space)の無視に大別できる.Virtual Reality (VR)では刺激誘発性注意の課題調整が可能であり左USN患者のADL改善に有用であると考えられる.今回,右被殻出血の重度麻痺および左USNを呈した症例を経験しVRでの日常生活動作の変化を得ることができたため報告する.本報告は学会発表に際して,本人とご家族に紙面にて同意を得た.
【症例紹介】40歳代男性,診断名は右被殻出血.入院当初,運動麻痺はBrannstrom Stage(BRS)上肢Ⅱ-手指Ⅱ-下肢Ⅲ.高次脳機能評価は,Trail Making Test(TMT)A・B:練習から実施困難,BIT:39/146点であった.FIMは31/126点であり,車椅子移動や日常生活動作は全介助レベルであった.
【介入経過・方法】発症4ヵ月で運動麻痺はBRS上肢Ⅰ-手指Ⅰ-下肢Ⅱ.高次脳機能評価は,Mini Mental State Examination(MMSE):22/30点,TMT-A:186秒,TMT-B:282秒,BIT:133/146点,CBS:6/30点,Stimulus-Driven Attention Test(SAT)-1:右上76.4%・右下76.4%・左上5.8%・左下11.7%,SAT-2:100%であった.車椅子駆動は,左側障害物への衝突や回避行動に遅延を認めた為,病棟車椅子移動・日常生活動作に介助が必要であった.
VRの実施環境は,車椅子座位にてヘッドマウントディスプレイを装着し投影される映像を注視して施行した.課題は,空間内にランダムで1つ出現する目標物を注視し続けると,目標物は消失する.その後新たな目標物が出現する課題となる.1setは8試行から始め,徐々に試行数を追加した.32試行を2~3setの週6-7回で1ヵ月半介入した.反応時間は,目標物全てを発見する時間であり,介入当初は反応時間平均が3.8秒であった.
【結果】介入後は,MMSE:26/30点,TMT-A:98秒,TMT-B:262秒,BIT:133/146点,CBS:0/30点,SAT-1:右上88.2%・右下76.4%・左上29.4%・左下17.6%,SAT-2:100%であった.FIMは92/126点であり,左側への衝突回数が減少し,トイレまで移動自立となった.VRの反応時間平均が3.1秒と変化した.初回介入と比較し,左下側の近位・遠位での反応時間が改善していた.
【考察】今回の介入では,CBS・SAT-1・SAT-2,VR反応時間の改善,車椅子駆動時の様子も改善が見られた.SATは刺激誘発性注意課題であり,机上評価では検出できないUSNを明らかにできると報告されている.VRを用いた先行研究では,日常生活場面で要求される刺激誘発性注意の要素を含んだ課題が実施可能と報告されている.今回の介入課題によって,遠位空間での刺激誘発性注意への改善に繋がり空間の左側への衝突や回避行動の改善に寄与した可能性が示唆される.