第58回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-13] 一般演題:脳血管疾患等 13

Sun. Nov 10, 2024 10:50 AM - 11:50 AM B会場 (中ホール)

座長:原田 祐輔(杏林大学 )

[OA-13-3] 脳卒中患者の筋活動指標に基づいた外骨格ロボットリハビリテーションにおける上肢挙上運動アシスト率の最適化

伊藤 大将1, 福田 森2, 細井 雄一郎1, 野田 智之3, 川上 途行1 (1.慶應義塾大学 医学部リハビリテーション医学教室, 2.慶應義塾大学 理工学部, 3.株式会社国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所 ブレインロボットインタフェース研究室)

【はじめに】ロボットリハビリテーションは脳卒中後の上肢機能障害に対する治療法として注目されているが,単にロボットを用いれば良いという訳ではなく,効果的なロボット介入には適切な難易度設定(ロボットアシスト率の設定)が必須である.特に,肩は解剖学的に複雑な構造をしているため,安全に,かつ機能改善に至る運動を行うためには,最適なロボットアシスト率での訓練が求められる.しかし,最適なロボットアシスト率を定量的に決定するための標準化された方法は存在しない.そこで我々は,筋活動指標から最適なロボットアシスト率を算出する新たな手法を開発した.本研究では,その手法を適用したロボットリハビリテーションの有効性と安全性を検討したため報告する.
【方法】本研究は単群の事前事後テストデザインを用いた.2021年10月から2022年10月までに研究に参加した慢性期脳卒中患者10名を対象に,1日あたり計100回のロボット装着下での上肢挙上運動(10回×10セット,約40分)を10日間実施した.ロボットは,空気圧人工筋によって滑らかな上肢挙上運動をアシストすることが可能である,我々が開発した外骨格ロボットを用いた.ロボットアシスト率は,三角筋前部と上腕二頭筋の共収縮指数(co-contraction index:CCI)を用いて算出した.算出方法は,まずロボットを装着し,麻痺側上肢の重量をもとにアシスト率100%(フルアシスト)で肩関節屈曲90°までの上肢挙上を5回実施し,その間の三角筋前部と上腕二頭筋の筋電図を計測した.次に,10%アシスト率を低下させ,同様の課題と筋電図計測を最大11セット(0%:アシストなし)まで継続した.得られた筋電図データからCCIを算出し,CCIはシグモイド関数を用いて線型フィッティングを行った.最適なアシスト率は,フィッティングしたCCI曲線の二次微分値が0となるアシスト率として決定した.主要アウトカムは,Fugl-Meyer assessment(FMA)の肩・肘・前腕スコア,運動学的アウトカム(自動肩関節最大屈曲角度[A-ROM],肩−肘屈曲比率[最大100%,上肢挙上中に肘が曲がるほど値が小さくなる指標]),および肩痛アウトカム(疼痛のない他動肩関節最大屈曲角度[P-ROM])とし,Wilcoxonの符号順位和検定を用いて介入前後の変化について検討した.なお,本研究は人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき実施し,倫理委員会の審査・承認を得て行った.個人情報は匿名化によって保護し,インフォームド・コンセントは対象者本人から文書説明・文書同意によって取得した.
【結果】10名の参加者(男性5名,女性5名)の平均年齢は57.0±5.5歳,発症からの期間は4.5±3.1年,介入前のFMA上肢項目の合計は18.7±10.5点であった.介入の結果,FMA肩・肘・前腕スコアは14.8±5.2点から15.8±5.4点(p=0.047)と有意な改善を認めた.運動学的アウトカムは,A-ROMで73.7±34.2°から84.9±39.0°(p=0.047),肩−肘屈曲比率で83.3±6.6%から88.5±5.0%(p=0.005)と有意な改善を認めた.肩痛アウトカムのP-ROMは124.5±13.9°から132.0±12.9°と有意な改善を認めた(p=0.027).なお,すべての患者で肩痛アウトカムの増悪および試験中の有害事象は観察されなかった.
【考察】筋電図指標から最適なロボットアシスト率を算出する手法を開発した.さらに,算出した最適アシスト率に基づくロボットリハビリテーションによって,重度上肢麻痺を有する慢性期脳卒中患者であっても安全に上肢機能を改善できる可能性が示された.今後は,この技術を基にロボット開発を進めると共に,ランダム化比較試験などの介入研究によって治療効果を調査する必要がある.