第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等 / 認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OA-14] 一般演題:脳血管疾患等 14/ 認知障害(高次脳機能障害を含む) 4 

2024年11月10日(日) 10:50 〜 11:50 C会場 (107・108)

座長:太田 久晶(札幌医科大学)

[OA-14-1] くも膜下出血後のTerson症候群によりせん妄が遷延した一例

吉永 貴博1, 坂本 佳1, 今田 吉彦1, 木原 薫2 (1.社会医療法人 寿量会 熊本機能病院 総合リハビリテーション部, 2.社会医療法人 寿量会 熊本機能病院 神経内科)

【目的】
今回,くも膜下出血後に意識障害とTerson症候群による両眼の視力障害を生じた事例を担当した.事例は発症から1ヶ月経過後もせん妄症状が残存していた.せん妄症状は,視力障害による身体的・精神的疲労感が影響していると考えた.環境調整や生活支援を行うことで症状の改善が見られたため考察を加えて報告する.なお, 本発表に際して,本人より同意を得ている.
【方法】
事例情報:30代男性右利き.くも膜下出血( Hunt and hess分類:GradeⅠ).CTにてシルビウス裂や脳底槽まで高信号を認めた.第42病日にリハ目的で当院へ転院した.発症前のADLは自立.入院当初の所見は,JCS1桁,BRS Ⅵ-Ⅵ-Ⅵ,BBS 22点であった.認知機能は精査困難であったが,その場での受け答えに問題はみられなかった.また,Terson症候群による視力障害があり,両眼とも明暗がぼんやりと確認できる程度であった.せん妄症状としては,「常に人がいて話しかけてくる.ライフルで狙われている.」といった幻覚・妄想様の発言や,ベッドから立ち上がり歩き出す等の危険行動がみられた.睡眠障害も伴い,夜間の睡眠時間は約1時間程度であった.日中は身体的・精神的疲労感から食事とトイレ以外は臥床していた.FIMは36点であった.
介入方法:くも膜下出血の予後は良好と判断されたが,視力障害によりせん妄が遷延していた.せん妄カンファレンスでは本人が生活の中で困っていることを共有し,その情報に応じて環境調整や生活支援を中心に介入した.夜間の睡眠時間を評価するため,パラマウントベッド株式会社製の非装着型睡眠計(以下眠りSCAN)を設置した.
【経過】
第46病日,本人より「周りの人が床に落とそうとする.周囲が白く光って見える」という訴えがあり不眠の原因となっていた.安心して眠れるように環境調整として,4点柵を設置しアイマスクの着用を促した.第53病日の眠りSCANによる測定では睡眠時間が4時間に改善していた.この頃から,リハでは車椅子座位での簡単な運動が可能となった.54病日,本人より「食事が見えなくてストレスです」という訴えがあり,食器位置の固定と食器下に滑り止めシートを設置した.さらに,スープやみそ汁はマグカップを使用した.第56病日には自力摂取が可能となり,睡眠時間は5時間に増加していた.徐々に幻覚は軽減していたが,「部屋で悪口を言う人がいる.」という訴えが聞かれたため,家族や看護師と相談し4人部屋から個室へ移動した.第70病日には夜間の中途覚醒時間がなくなり,睡眠時間は7時間に増加した.その後,歩行練習や立位バランス練習等.積極的なリハが開始できた.
【結果】
第79病日にはせん妄に伴う言動が消失した.両眼の視力障害は残存していたが,BBSは55点となり,前腕支持型歩行車による移動が可能となった.FIMは84点に改善した.今後の目標として「まず,身の回りのことぐらいはできるようになりたい.」といった前向きな発言が聞かれた.
【考察】
本事例は,くも膜下出血の予後が良好であったが,視力障害の影響でせん妄が遷延していた. 白石は「視力障害はせん妄のリスク因子であり,早期発見が必要である.」と報告している.本事例においても,せん妄の遷延にTerson症候群による両眼の視力障害が関連していると判断し,早期から事例が抱えている身体的・精神的疲労感に着目し介入した.多職種にて事例の情報を共有し,環境調整や生活支援を行えたことで,生活リズムが安定し.せん妄症状が軽減できたと考える.視覚障害への対応はせん妄症状軽減の一助となった.