[OA-14-2] 遷延性意識障害患者に対するリハビリテーション介入時の開眼率と笑顔強度の定量的評価
~表情分析技術の有用性の検討~
【背景と目的】遷延性意識障害とは,覚醒度が低下し,自己と外界を正しく認識し自発的かつ合目的に反応することに障害がある症状が3ヶ月以上継続した状態を指す.遷延性意識障害に対するリハビリテーションは,意識状態の回復が介入目的の一つであり,その評価は主に行動観察により行われる.観察対象には患者の覚醒度を反映する開眼の有無や,認識能力と情動機能を反映するとされる表情変化などが含まれる.しかし,遷延性意識障害を有する患者におけるこれらの行動反応は一定ではないため,開眼や表情表出の頻度や表情の強度を観察から評価することは難しい.一方で,一定でないからこそ軽微な意識状態の変化やその長期的な傾向を捕捉するためにはそれらの行動反応の定量化が重要であると考える.そこで,表情筋の動きを符号化することで開眼の有無と表情強度を計測可能にする表情分析技術と,それを実装したソフトウェアに着目した.これにより,表情を撮影した動画を基にその変化をフレームごとに定量化できる.本研究は意識評価における表情分析技術の有用性を検討することを目的とし,表情分析技術によって定量化した遷延性意識障害患者の介入中の開眼率と表情反応が既存の意識の重症度評価である広南スコアと関連を示すか否かを検証した.【方法】当院の意識障害回復センターに入院中の患者4名を対象とした(患者A:40代,男性,びまん性軸索損傷,開始時広南スコア69点(最重症例),患者B:70代,女性,脳挫傷,46点(中等症例),患者C:80代,男性,びまん性軸索損傷,59点(重症例),患者D:20代,男性,脳挫傷,49点(中等症例)).測定は,理学療法士または看護師によるリハビリテーション介入前後の安静時を含む介入中の表情を正面からビデオカメラを用いて撮影した.測定は2週に1回以上の頻度で,患者によって5ヶ月〜15ヶ月間に渡り実施した.撮影された表情動画は表情分析ソフトを用いて解析し,動画中の開眼の有無と笑顔の強度(0(最小)〜1(最大)の連続値)を1/60秒ごとに算出し,その動画における開眼率と笑顔強度の平均値を求めた.測定期間全体のデータについて,患者間で開眼率と笑顔強度の比較を行った(Kruskal-Wallis test,Bonferroni test).さらに毎月評価される広南スコアにおいて意識状態の改善を認めた2名(患者C:重症→脱却,D:中等症→脱却)について,中等症または重症に分類(40〜64点)された期間と軽症または脱却に分類(39点以下)された期間で開眼率と笑顔強度に差を認めるか比較した(Wilcoxon signed-rank test).有意水準は5%未満とした.本研究実施にあたり当大学倫理委員会の承認と対象者家族に同意を得た.【結果】開眼率の中央値は患者A:0.63%,B:18%,C:77%,D:95%であり,患者Cは患者A(最重症例)よりも,患者Dは患者AとB(中等症例)よりも有意に高かった.笑顔強度の中央値は患者A:0.04,B:0.06,C:0.06,D:0.13であり,患者Dは患者AとCよりも有意に強かった.また患者Dにおいて,軽症または脱却に分類された期間の開眼率(中央値98%)は中等症の期間の開眼率(中央値91%)よりも有意に高かった.【考察】表情分析に基づく開眼率および笑顔強度は,意識障害が軽度の患者において高まる傾向を示した.また,縦断的な検討では中等症から脱却への改善に伴い開眼率が高まる傾向を示した.表情分析から得られる開眼率と笑顔強度は意識の重症度評価である広南スコアと関連することを示し,介入中の覚醒度や認識度といった意識状態の定量的な評価手法として表情分析が応用できる可能性が示された.