[OA-14-4] 両側後大脳動脈領域梗塞によって高次視知覚障害を有した事例への退院前訪問の意義
【序論】後大脳動脈領域梗塞の高次脳機能障害は生活に影響するが退院前訪問に関する報告はない.本報告の目的は,両側後大脳動脈領域梗塞後に高次視知覚障害を有した事例に対する作業療法(以下,OT)から退院前訪問の意義を考察することである.報告に際し院内の倫理委員会承認と事例の同意を得た.
【事例】80歳代,男性,右利き,教育歴18年.妻と2人暮らし.会社退職後,NPO団体運営等でPCを使いこなしていた.
【現病歴】妻の顔がわからない,トイレに行けない,メールが打てないことを自覚し,翌日近医を受診.MRIで両側後大脳動脈領域の脳梗塞を指摘され,当院入院となった.
【作業療法評価(3病日~)】GCS14/15.疎通の問題はなく,主訴は目が見えにくいことだった. 上水平半盲の他は,感覚,随意運動,脳神経に問題なかった.記憶は,午前中の出来事を覚えていなかったが,発症前のエピソードは口述できた. 半側空間無視・失行は認めず,視知覚は,大脳性色彩認知障害・失読・相貌失認・地誌的見当識障害を認め,病棟ではトイレや洗面所に行くと使用後に自室に戻れなかった.MMSE21点,Kohs立方体組合せテストIQ69だった.
【作業療法方針】高次脳機能評価を継続しながら,①病棟生活での混乱を最小限にすること,②事例・妻・医療者が退院後の自宅生活をイメージできること,③事例・妻が障害を理解することを目標にした.
【経過】9病日急性期病棟から一般病棟,29病日回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ)に転棟.病棟では急性期看護師と相談して自室に目印をつける工夫を行ったが,棟内で迷うことは解消できなかった.字が読めない,自宅の間取りが思い出せないなどの訴えには,急性期から障害の説明を繰り返し行い,妻の面会時は訓練に同席してもらった.一般病棟転棟後は,ベッドの配置などの空間的環境が変化しないよう配慮したが,棟内で迷うことは変化がなく,自身についての悲観的な発言が増えた.一方,自宅では迷うことはないと述べていた.退院後は日課だった散歩や会議資料作成の希望があり, Webで自宅周囲環境の確認,PC操作訓練を導入した. 回リハ転棟後は,自室周囲は迷いながらも行動可能となった.しかし,自宅周囲のWeb画像の確認や道順説明はできなかった. キーボード操作は,一文字ずつ探索するより,手続き記憶を利用し,これまでの感覚に頼って操作する方がうまくいくことを共有した.43病日,自宅での生活は妻の見守りや付添があれば可能と考え,退院後に一人で可能な活動,妻の介護負担軽減の検討を目的に,事例・OT・心理士で自宅を訪問することが決定し,56病日に実施した.結果,歩行者用信号の見落し等があったが,屋内外の移動,PC操作は概ね可能であることを確認した.当面の外出は妻とすること,外出訓練に福祉サービスを検討し,59病日自宅退院,その後3か月間の外来フォローアップを決定した.
【考察】後大脳動脈領域梗塞による高次視知覚障害を有する事例への退院前訪問の意義は,事例の既知空間で高次視知覚障害の生活の影響を評価可能であることと考える.病院では検査バッテリーや院内生活から,予測的な評価は可能だが,画像や新規目印などは,その機能障害のため認知・探索が困難であり,自宅環境で発揮できる機能を評価できない.これまで高次視覚知覚障害を有する事例の退院前自宅訪問の報告はないが,退院支援に有効であると思われた.
【事例】80歳代,男性,右利き,教育歴18年.妻と2人暮らし.会社退職後,NPO団体運営等でPCを使いこなしていた.
【現病歴】妻の顔がわからない,トイレに行けない,メールが打てないことを自覚し,翌日近医を受診.MRIで両側後大脳動脈領域の脳梗塞を指摘され,当院入院となった.
【作業療法評価(3病日~)】GCS14/15.疎通の問題はなく,主訴は目が見えにくいことだった. 上水平半盲の他は,感覚,随意運動,脳神経に問題なかった.記憶は,午前中の出来事を覚えていなかったが,発症前のエピソードは口述できた. 半側空間無視・失行は認めず,視知覚は,大脳性色彩認知障害・失読・相貌失認・地誌的見当識障害を認め,病棟ではトイレや洗面所に行くと使用後に自室に戻れなかった.MMSE21点,Kohs立方体組合せテストIQ69だった.
【作業療法方針】高次脳機能評価を継続しながら,①病棟生活での混乱を最小限にすること,②事例・妻・医療者が退院後の自宅生活をイメージできること,③事例・妻が障害を理解することを目標にした.
【経過】9病日急性期病棟から一般病棟,29病日回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ)に転棟.病棟では急性期看護師と相談して自室に目印をつける工夫を行ったが,棟内で迷うことは解消できなかった.字が読めない,自宅の間取りが思い出せないなどの訴えには,急性期から障害の説明を繰り返し行い,妻の面会時は訓練に同席してもらった.一般病棟転棟後は,ベッドの配置などの空間的環境が変化しないよう配慮したが,棟内で迷うことは変化がなく,自身についての悲観的な発言が増えた.一方,自宅では迷うことはないと述べていた.退院後は日課だった散歩や会議資料作成の希望があり, Webで自宅周囲環境の確認,PC操作訓練を導入した. 回リハ転棟後は,自室周囲は迷いながらも行動可能となった.しかし,自宅周囲のWeb画像の確認や道順説明はできなかった. キーボード操作は,一文字ずつ探索するより,手続き記憶を利用し,これまでの感覚に頼って操作する方がうまくいくことを共有した.43病日,自宅での生活は妻の見守りや付添があれば可能と考え,退院後に一人で可能な活動,妻の介護負担軽減の検討を目的に,事例・OT・心理士で自宅を訪問することが決定し,56病日に実施した.結果,歩行者用信号の見落し等があったが,屋内外の移動,PC操作は概ね可能であることを確認した.当面の外出は妻とすること,外出訓練に福祉サービスを検討し,59病日自宅退院,その後3か月間の外来フォローアップを決定した.
【考察】後大脳動脈領域梗塞による高次視知覚障害を有する事例への退院前訪問の意義は,事例の既知空間で高次視知覚障害の生活の影響を評価可能であることと考える.病院では検査バッテリーや院内生活から,予測的な評価は可能だが,画像や新規目印などは,その機能障害のため認知・探索が困難であり,自宅環境で発揮できる機能を評価できない.これまで高次視覚知覚障害を有する事例の退院前自宅訪問の報告はないが,退院支援に有効であると思われた.