第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-2] 一般演題:脳血管疾患等 2

2024年11月9日(土) 12:10 〜 13:10 D会場 (小ホール)

座長:前田 正憲(鹿教湯三才山リハビリテーションセンター)

[OA-2-1] 高次脳機能障害を伴う脳卒中片麻痺患者に対して,教示方法や環境調整を工夫した修正CI療法により麻痺手の不使用が改善した症例

佐藤 志帆, 馬渕 みずほ, 姫田 大樹 (医療法人社団健育会 竹川病院 リハビリテーション部)

【はじめに】CI療法は「活動・参加」レベルのアウトカムに影響を与えるアプローチであり(竹林崇, 2021),行動学的手法であるTransfer Package(以下, TP)が重要な要素とされている(Morris, 2006).今回,覚醒低下や高次脳機能障害を伴う脳卒中片麻痺患者に対して教示方法や環境設定を工夫した修正CI療法を実施し,麻痺手の不使用の改善により箸操作やルックスケアの獲得に至ったため報告する.
【症例紹介】80歳代,女性,右利き.左視床出血右片麻痺を発症し,28病日に回復期リハビリテーション病棟に入棟.病前は独居生活で,自宅内は伝い歩きでADL・IADL自立.趣味は料理であった.本報告にあたり症例から書面にて同意を得た.
【初期評価(28病日)】JCS:I-2,MMSE-J:17点,TMT-A:203秒.右上肢機能は,BRS上肢Ⅲ-手指Ⅳ,FMA上肢運動項目:36/66点,深部覚:中等度鈍麻,痛覚:重度鈍麻,触覚:軽度鈍麻,MAS:肘関節屈曲筋群1,握力:R8.0/L13.5㎏,STEF:R0/L80点,MAL:AOU0.58/QOM0.58,FIM38点(運動22点,認知16点).日中は傾眠傾向で,覚醒と全身耐久性の低下を認めた.右上肢に対して「こっちはだめ」等の悲観的な発言が多く,不使用状態であった.目標は普通箸で天ぷらを食べる,毎朝化粧水をムラなく塗ることが出来るが挙げられた.
【問題点抽出と介入方針】右上肢の運動麻痺による学習性不使用,かつ覚醒低下や注意障害,記憶障害を呈し,動機付けや理解に対して工夫を必要とした.初期は右上肢中枢部の機能改善に向けてロボット療法を中心に実施.身体機能の向上とともに,修正CI療法を中心にADL改善や目標動作獲得を目指した.
【介入と経過】作業療法は40~60分/日実施.通常作業療法では,ロボット療法,電気刺激療法,ADL練習等を実施した.37病日から修正CI療法と自主練習を開始した.Shapingは,目標動作に必要な関節運動を伴う課題,Task Practiceは右上肢を補助手として使用する課題から開始した.自主練習は,右上肢の使用に対する動機付けや理解の低下により定着が困難であったため,写真付きの資料を用いた指導やチェック表の作成を行い,自己管理を促した.内容は実施可能なShaping課題とし,覚醒と耐久性に考慮し1回15分程度に設定した.47病日より右上肢の随意性向上を認めたため,TPを導入した.動画でのセルフモニタリングを通して問題点の確認や解決方法等の意見交換を行いながら,自助具の使用や環境調整を行い,生活での麻痺手使用を促した.さらに,ADOC-Hにて右上肢の使用場面を抽出し,使用可否を毎日モニタリングした.
【最終評価(141病日)】JCSⅠ-1,MMSE-J:27点,TMT-A:137秒.右上肢機能は,BRS上肢Ⅴ-手指Ⅴ,FMA:上肢運動項目55/66点,深部覚:中等度鈍麻,痛覚:正常,触覚:軽度鈍麻,MAS:肘関節屈曲筋群0,握力:R8.5/L15.5㎏,STEF:R62/L85点,MAL:AOU4.08/QOM3.54,FIM68点(運動41点,認知27点).右上肢は実用手に至り,普通箸を使用した食事や化粧水,クリームを塗布するルックスケアが可能となった.135病日頃には「これからも右手を使うわよ」と右上肢への肯定的な発言が聞かれた.
【考察】本症例は覚醒低下や高次脳機能障害により,口頭指示のみでは自主練習の理解や成功体験の記憶定着が困難であり,右上肢の動機付けや目的的利用を図ることに難渋した.写真や動画等を用いた工夫により,具体的理解や記憶促進を図ることが可能となり,モニタリングの強化や生活での麻痺手使用を導く一助になったと考える.修正CI療法において,覚醒や高次脳機能に問題を呈していても,教示方法や環境設定法の工夫により効果が得られることが示唆された.