[OA-3-2] 脳卒中後の有効視野と運転行動の関連性
~左右損傷半球別にみた探索的研究~
【背景と目的】頭部外傷後の有効視野と運転行動の関連性が指摘されているが(Novack et al, 2006),脳卒中後の有効視野と運転行動の関連性について損傷半球別に検討した報告は少ない(Hirt et al,2018).本研究では,脳卒中後の有効視野と運転行動の関連性を探索的に検討することを目的とした.
【方法】本研究はケースコントロール研究である.対象は脳卒中後に当センターにて運転適性評価を実施した36名の内,両側病変(4名),ドライビングシミュレーター検査(以下,DS検査)における画面酔い(8名)を除外した24名(左半球損傷14名:53.3歳±12.0歳,右半球損傷10名:55.4歳±9.0歳)である.測定項目は,UFOV® test1(情報処理速度),test2(配分性注意),test3(選択性注意)を実施した.UFOV® test1は,デスクトップ型パソコンの画面中央に表示された車両(乗用車またはトラック)を識別する課題である.車両の表示時間は正答するごとに短縮し,75%以上の正答率が得られた最短時間(ミリ秒)を成績とした.UFOV® test2は,test1における車両の識別課題と同時に,周辺に表示された車両の位置を回答した.UFOV® test3はtest2と同様の課題であるが,干渉刺激として画面内に三角形が47個表示された.DS検査は三菱プレシジョン社製DS7000Rにおける危険予測体験の中から4カ所の危険場面を含む市街地コースを運転した.場面1(交差点直進時の先行左折車の急停止),場面2(対向右折車両の死角を直進してくる二輪車),場面3(横断歩道手前の左側駐車車両の陰からの横断歩行者の通行),場面4(交差点左折時の原付バイクの巻き込み)において不安全な運転行動が検出された際は,DS機器が自動的に減点した(総合点最高:34点,最低:0点,安全な運転行動は高得点を意味した).損傷半球別に2群に分けて統計値を算出し,UFOV®およびDS検査における2群間の差の検定(Mann-Whitney U検定)を行った.また,UFOV®とDS検査の関連性を調べるために相関係数(Spearman順位相関係数)を求めた.統計処理はIBM社製SPSS Statistics28を使用し有意水準は0.05とした.本研究は倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:2023003).
【結果】左右損傷半球間ではUFOV®,DS検査のいずれにおいても有意差はみられなかった.左半球損傷では,DS検査における全4場面においてUFOV®との有意な相関がみられなかったが,右半球損傷では場面3とtest2(r=.672,p<0.05),test3(r=.707,p<0.05),場面4とtest2(r=.646,p<0.05),総減点数と test2(r=.637,p<637)に有意な相関がみられた.
【考察】UFOV® test1では中心視の情報処理速度に着目しており,周辺視野の要素は含まれないが,test2,test3では中心部を注視しながら同時に広く周辺を見る必要がある.右半球損傷では,走行中に左側の駐車車両の陰から横断歩行者が通行する場面や,交差点左折時に原付バイクを巻き込まないように注意する場面では,有効視野の低下が不安全な運転行動につながった可能性が示唆された.一方,左半球損傷では有効視野と運転行動との明らかな関連性はみられなかった.脳の損傷半球によって運転行動に与える影響が異なる可能性が示唆され,運転行動を評価する際には脳の損傷部位および範囲を十分に確認することが重要である(渡邉,2011).本研究は少数例における探索的研究であるため,今後は症例数を増やし一般健常者も含めて検討することで,病気に特有の症状であるかどうかを検証する必要がある.
【方法】本研究はケースコントロール研究である.対象は脳卒中後に当センターにて運転適性評価を実施した36名の内,両側病変(4名),ドライビングシミュレーター検査(以下,DS検査)における画面酔い(8名)を除外した24名(左半球損傷14名:53.3歳±12.0歳,右半球損傷10名:55.4歳±9.0歳)である.測定項目は,UFOV® test1(情報処理速度),test2(配分性注意),test3(選択性注意)を実施した.UFOV® test1は,デスクトップ型パソコンの画面中央に表示された車両(乗用車またはトラック)を識別する課題である.車両の表示時間は正答するごとに短縮し,75%以上の正答率が得られた最短時間(ミリ秒)を成績とした.UFOV® test2は,test1における車両の識別課題と同時に,周辺に表示された車両の位置を回答した.UFOV® test3はtest2と同様の課題であるが,干渉刺激として画面内に三角形が47個表示された.DS検査は三菱プレシジョン社製DS7000Rにおける危険予測体験の中から4カ所の危険場面を含む市街地コースを運転した.場面1(交差点直進時の先行左折車の急停止),場面2(対向右折車両の死角を直進してくる二輪車),場面3(横断歩道手前の左側駐車車両の陰からの横断歩行者の通行),場面4(交差点左折時の原付バイクの巻き込み)において不安全な運転行動が検出された際は,DS機器が自動的に減点した(総合点最高:34点,最低:0点,安全な運転行動は高得点を意味した).損傷半球別に2群に分けて統計値を算出し,UFOV®およびDS検査における2群間の差の検定(Mann-Whitney U検定)を行った.また,UFOV®とDS検査の関連性を調べるために相関係数(Spearman順位相関係数)を求めた.統計処理はIBM社製SPSS Statistics28を使用し有意水準は0.05とした.本研究は倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:2023003).
【結果】左右損傷半球間ではUFOV®,DS検査のいずれにおいても有意差はみられなかった.左半球損傷では,DS検査における全4場面においてUFOV®との有意な相関がみられなかったが,右半球損傷では場面3とtest2(r=.672,p<0.05),test3(r=.707,p<0.05),場面4とtest2(r=.646,p<0.05),総減点数と test2(r=.637,p<637)に有意な相関がみられた.
【考察】UFOV® test1では中心視の情報処理速度に着目しており,周辺視野の要素は含まれないが,test2,test3では中心部を注視しながら同時に広く周辺を見る必要がある.右半球損傷では,走行中に左側の駐車車両の陰から横断歩行者が通行する場面や,交差点左折時に原付バイクを巻き込まないように注意する場面では,有効視野の低下が不安全な運転行動につながった可能性が示唆された.一方,左半球損傷では有効視野と運転行動との明らかな関連性はみられなかった.脳の損傷半球によって運転行動に与える影響が異なる可能性が示唆され,運転行動を評価する際には脳の損傷部位および範囲を十分に確認することが重要である(渡邉,2011).本研究は少数例における探索的研究であるため,今後は症例数を増やし一般健常者も含めて検討することで,病気に特有の症状であるかどうかを検証する必要がある.