第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-3] 一般演題:脳血管疾患等 3

2024年11月9日(土) 13:20 〜 14:20 C会場 (107・108)

座長:務台 均(信州大学 医学部保健学科作業療法学専攻)

[OA-3-4] 回復期脳卒中患者のリハビリテーションに対する動機づけ自律性が与える影響

刈屋 喬1,3, 能登 真一2 (1.新潟リハビリテーション病院 リハビリテーション部作業療法科, 2.新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部, 3.新潟医療福祉大学 大学院医療福祉学研究科保健学専攻)

【1,はじめに】動機づけは人が行動を起こすプロセスとして重要な概念として定義されている.しかし,先行研究では脳卒中患者のリハビリテーション(以下,リハ)に対する動機づけが与える影響について明らかにされておらず,特に動機づけの質についての報告は少ない.本研究では回復期病棟に入院中の脳卒中患者を対象として,リハへの動機づけの質的要因が,対象者が自己決定した目標に対する遂行度・満足度や,健康関連QOLの主観的評価,回復期機能評価のメインアウトカムである機能的自立度(Functional Independence Measure:以下,FIM)に影響を与えるか明らかにすることで,回復期リハを効果的に行うための指標となりうるか検討することを目的とした.
【2,方法】対象者は2022年11月~2023年8月に医療法人愛広会新潟リハビリテーション病院回復期病棟に入院した初発脳卒中患者とした.リハへの動機づけの質は,自律性の観点で評価する訓練動機づけ尺度を用いて評価した.目的変数として,初期評価時および退院時評価におけるカナダ作業遂行測定(以下,COPM),MOS36項目短形健康調査(以下,SF-36),FIM運動項目スコアを用いた.統計解析は訓練動機づけ尺度の各スコア平均の増減と,COPMは先行研究の臨床上意味のある最小重要差(以下,MIC)の超える上昇の有無についてカイ二乗検定を実施した後,単変量ロジスティック回帰分析を実施して関係性を検討した.SF-36とFIMについてはSpearmanの符号付順位和検定にて相関分析後,目的変数を各変化量とした重回帰分析を実施した.統計的有意水準はいずれも5%とした.統計ソフトはR version 4. 1. 2を用いて解析した.本研究は医療法人愛広会新潟リハビリテーション病院倫理審査委員会,新潟医療福祉大学倫理審査委員会にて承認(受付番号18919)を受けた後,ヘルシンキ宣言の原則に従って実施した.
【3,結果】対象者は研究期間中に包含基準を満たした26名であった(年齢60.8±12.5歳,脳出血17名,脳梗塞9名,左麻痺12名,右麻痺14名,発症後期間25.1±9.4日,在院日数93.8±41.4日,入院前就労あり16名,就労なし10名,同居家族:あり23名,なし3名).統計解析の結果,COPMの遂行度(以下,COPM-P)スコアのMIC値以上の上昇と,他律的動機づけスコアの増加(オッズ比6.67,95%信頼区間1.05-42.40,p=0.04),非動機づけスコアの増加がない(オッズ比13,95%信頼区間1.27-133,p=0.03)ことの間に有意な関連が認められた.SF-36については初期評価時の他律的動機づけスコアと役割/社会的健康関連QOLスコアに負の相関(p<0.05)を認め,重回帰分析では初期評価時の他律的動機づけスコア(p<0.01)とその変化量(p<0.05)が役割/社会的健康関連QOLスコアの変化量を有意に改善することが認められた.リハに対する意欲とFIMとの間には有意な関連は認められなかった.
【4,考察】COPM-PのMIC値を超える上昇については,対象者が同居家族,就労ありの方が多く,家族や社会との関係性の中で役割を再獲得することを目標設定したと考えられ,他者との関係性や評価といった外的要因の影響を受ける他律的動機づけの増加が影響を与えたと考えられた.また,他律的動機づけの変化量が,役割/社会的健康関連QOLスコアの変化量に影響を認めたことについては,COPM-P改善が役割の再獲得に関連していると考えられるが,COPMと役割/社会的健康関連QOLとの直接的関連の検討が必要である.
【5,結論】回復期脳卒中患者のリハに対する動機づけの質的要因として,他律的動機づけが増加することで,目標とする活動の遂行度に正の影響を与え,対象者の役割/社会的健康関連QOLを改善することが示唆された.