第58回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-4] 一般演題:脳血管疾患等 4

Sat. Nov 9, 2024 1:20 PM - 2:20 PM D会場 (小ホール)

座長:前田 亮介(聖マリア ヘルスケアセンター リハビリテーション室)

[OA-4-2] 院内ボランティア活動を通して復職への不安感が軽減した一症例

伊東 和哉 (福島医療生活協同組合 わたり病院)

【はじめに】脳卒中患者の職場復帰は,再発への不安や長期の隔離感など多くの心理的障壁を伴う.特に働き盛りの年齢層では仕事に戻ることに対する強い不安を感じることがあり,これを軽減するための支援が求められる.本報告では,院内ボランティア活動を通じて職場復帰への不安軽減が図れた症例を報告する.なお本報告に対しては症例に説明し同意を得ている.
【症例紹介】40代男性.X年Y月Z日の深夜に停車中の車に追突する事故を起こし,その後朦朧とした状態で救急外来を受診.同日入院し右脳梗塞の診断となる.Z+30日後,当院回復期病棟へ転院.仕事は土木関連会社の正社員で,業務内容としては多岐にわたる(ソーラーパネルの設置や発電所のメンテナンス,原発内の木の伐採,草刈り作業等).
【作業療法評価】BRS上下肢・手指StageⅥ.関節可動域制限もなくMMTも上下肢5.独歩可能で身体機能面はやや体力低下を自覚する程度であった.認知機能面でも目立った問題はなく,FIMの運動項目89/91点,認知項目33/35点であり入院日から病棟内独歩自立,ADL自立であった.
【職場復帰への不安】当院に転院された段階ですでに身体機能面,認知機能面はリハビリゴールのレベルであったが,今回初めての脳梗塞の発症から職場復帰への不安感が強い様子がうかがえた.また土木関係の会社ではあるも,その勤務形態は派遣型で一貫しない様々な業務内容であることも要因のようだった.
【MTDLPの実施】そこで本人の職場復帰への不安感を軽減するための作業活動が必要と考え,MTDLPを用いて介入した.その結果「安心して仕事に戻る準備をする」(実行度・満足度はともに5/10)という合意目標を設定し,院内ボランティア活動という枠組みで様々な作業を行うことをプログラムに導入した.
【作業療法プログラム】基本プログラムとしては筋力強化訓練と有酸素運動,応用プログラムとして依頼を受けた作業をOTRとともに作業療法時間内に実施した.また仕事環境影響尺度(WEIS)や仕事遂行評価表(AWP)による職場復帰への課題抽出,さらに職場の上司との面談を実施し,具体的な復帰日,勤務時間や業務内容などを話し合い,より職場復帰への不安感を軽減できるような手配を行った.
【院内ボランティア活動について】院内ボランティア活動としては,病棟内の雑務を担っている看護助手スタッッフと,病院全体の雑務を担っている庶務課から依頼された作業を主に実施した.内容としては廃棄予定の下駄箱の解体作業やタオルたたみ,スチールラックの修理作業など様々な種類の作業であった.それぞれ依頼があった作業を3単位の作業療法の時間内に実施した.作業に関しての動作や工程に大きな問題はなく,OTRと協力して行うことが可能であった.症例の変化としては様々な作業を実際に行うことでの職場復帰へのイメージングができたこと,加えて他のスタッフから頻繁に感謝の言葉をかけられるようになり,本人も自信がついてきた様子がうかがえた.
【結果】FIMは運動項目91点,認知項目35点と満点にまで向上し,MTDLPで設定した「安心して仕事に戻る準備をする」に対しては実行度・満足度はともに10/10となり,「仕事に戻るイメージができた」「自信がついた」との発言が聞かれるようになった.
【考察】今回,院内ボランティア活動を取り入れた作業療法が脳卒中患者の職場復帰不安を軽減させ,自信を向上させることが示された.これは作業療法が心理的障壁を克服し,社会復帰を助ける効果的な手段であることを証明し,実際の作業経験が職場適応能力の向上に特に重要であることを示唆していると考える.