[OA-4-5] 悪性神経膠腫患者への復職支援
~コミュニケーション障害に対する代償手段の獲得を目指した介入~
【はじめに】
脳腫瘍の治療過程で遺残する高次脳機能障害は,就労の継続や復職に影響を及ぼす.今回,高次脳機能障害によるコミュニケーション障害を認め,術前の機能評価から退院後の外来リハビリテーションまでの一貫した介入を行うことで復職につなぐことができた症例を経験したため報告する.なお,本報告に際し本人の承諾を得ている.
【症例】
40代男性.妻と二人暮らし.職業は大学教授.X-2年頃より会話の内容が理解できなくなるようになり,近医を受診した.X年Y月Z-41日に施行された頭部MRI検査で左側頭葉の腫瘍性病変を指摘され,開頭腫瘍摘出手術を含めた精査加療を目的として当院を紹介された.見当識は保たれていたが,聴理解が低下しており複雑な会話は困難であった.四肢に運動麻痺や感覚障害は認めず,セルフケアや歩行は自立していた.標準失語症検査(以下SLTA)に明らかな低下項目はなかったが,Wechsler Memory Scale-Revised(以下WMS-R)は言語性記憶79,視覚性記憶97,一般的記憶87,注意/集中力131,遅延再生80であり,言語性記憶障害が認められた.FIMは運動項目91,認知項目33であった.Y月Z日,言語機能の可及的温存を目指した覚醒下開頭腫瘍摘出術が施行され,術後2日より術後リハビリテーションを開始した.術後8日のSLTAでは語列挙課題で減点がみられ,日本語版Montoreal Cognitive Assessmentは23点で文章再生,語想起課題,遅延再生の減点を認めた.
病理組織診断は神経膠腫(星細胞腫IDH変異型grade3)であり,補助療法として化学放射線治療が選択され,入院加療を継続することとなった.言語性記憶障害によるコミュニケーション障害はあるものの,自発的にメモリーノート(以下メモ)を使用し,病棟での生活は自立していた.作業療法では本人の希望により体力強化を実施しつつ,高次脳機能障害の経過をフォローした.術後73日で自宅に退院したが,退院前に実施したWMS-Rは言語性記憶84,視覚性記憶94,一般的記憶91,注意/集中力128,遅延再生89であった.SLTAや改訂版標準注意検査法では明らかな低下項目はなかったが,検査中には指示を理解できず何度も聞き返す様子がみられ,聴理解低下の残存も自覚していた.言語性記憶障害が退院後の社会生活を送る上での支障となる可能性を患者,家族と共有し,退院後は外来リハビリテーションを継続して復職を支援することとした.
退院後も聴理解の低下の自覚は強く,メモの使用を忘れ家族からの依頼を実行できないこともあった.大学教員としての主な職務の内容は,講義,ゼミ(学生や大学院生の論文対応)や会議であり,視覚による代償手段の確立と職場の環境調整の指導を目標として介入を継続した.代償手段としては,講義中の質問に質問用紙を用いる,ゼミの論文指導には必ず文字媒体を利用する,文字化アプリケーションで会議録を作成することなどを提案した.環境調整は職場での症状に対する理解を促し,業務量の調整や会議出席者への協力依頼を指導した.術後119日より職場へ復帰したが,突発的な会話や3人以上での会話内容の理解には困難さがあった.術後189日には講義を開始し,ゼミや会議にも会議録を参照し,参加者へ内容を確認しながら対応することが可能となった.術後283日時点まで大きなトラブルはなく経過している.
【考察】
予定手術と術後補助療法を実施された悪性神経膠腫患者に対し,早期からの機能評価を元に職場の環境調整や代償手段の確立を提案して復職を支援した.コミュニケーション障害の理解を促し,自ら周囲へ働きかけられたことも職場への復帰に有効であった.
脳腫瘍の治療過程で遺残する高次脳機能障害は,就労の継続や復職に影響を及ぼす.今回,高次脳機能障害によるコミュニケーション障害を認め,術前の機能評価から退院後の外来リハビリテーションまでの一貫した介入を行うことで復職につなぐことができた症例を経験したため報告する.なお,本報告に際し本人の承諾を得ている.
【症例】
40代男性.妻と二人暮らし.職業は大学教授.X-2年頃より会話の内容が理解できなくなるようになり,近医を受診した.X年Y月Z-41日に施行された頭部MRI検査で左側頭葉の腫瘍性病変を指摘され,開頭腫瘍摘出手術を含めた精査加療を目的として当院を紹介された.見当識は保たれていたが,聴理解が低下しており複雑な会話は困難であった.四肢に運動麻痺や感覚障害は認めず,セルフケアや歩行は自立していた.標準失語症検査(以下SLTA)に明らかな低下項目はなかったが,Wechsler Memory Scale-Revised(以下WMS-R)は言語性記憶79,視覚性記憶97,一般的記憶87,注意/集中力131,遅延再生80であり,言語性記憶障害が認められた.FIMは運動項目91,認知項目33であった.Y月Z日,言語機能の可及的温存を目指した覚醒下開頭腫瘍摘出術が施行され,術後2日より術後リハビリテーションを開始した.術後8日のSLTAでは語列挙課題で減点がみられ,日本語版Montoreal Cognitive Assessmentは23点で文章再生,語想起課題,遅延再生の減点を認めた.
病理組織診断は神経膠腫(星細胞腫IDH変異型grade3)であり,補助療法として化学放射線治療が選択され,入院加療を継続することとなった.言語性記憶障害によるコミュニケーション障害はあるものの,自発的にメモリーノート(以下メモ)を使用し,病棟での生活は自立していた.作業療法では本人の希望により体力強化を実施しつつ,高次脳機能障害の経過をフォローした.術後73日で自宅に退院したが,退院前に実施したWMS-Rは言語性記憶84,視覚性記憶94,一般的記憶91,注意/集中力128,遅延再生89であった.SLTAや改訂版標準注意検査法では明らかな低下項目はなかったが,検査中には指示を理解できず何度も聞き返す様子がみられ,聴理解低下の残存も自覚していた.言語性記憶障害が退院後の社会生活を送る上での支障となる可能性を患者,家族と共有し,退院後は外来リハビリテーションを継続して復職を支援することとした.
退院後も聴理解の低下の自覚は強く,メモの使用を忘れ家族からの依頼を実行できないこともあった.大学教員としての主な職務の内容は,講義,ゼミ(学生や大学院生の論文対応)や会議であり,視覚による代償手段の確立と職場の環境調整の指導を目標として介入を継続した.代償手段としては,講義中の質問に質問用紙を用いる,ゼミの論文指導には必ず文字媒体を利用する,文字化アプリケーションで会議録を作成することなどを提案した.環境調整は職場での症状に対する理解を促し,業務量の調整や会議出席者への協力依頼を指導した.術後119日より職場へ復帰したが,突発的な会話や3人以上での会話内容の理解には困難さがあった.術後189日には講義を開始し,ゼミや会議にも会議録を参照し,参加者へ内容を確認しながら対応することが可能となった.術後283日時点まで大きなトラブルはなく経過している.
【考察】
予定手術と術後補助療法を実施された悪性神経膠腫患者に対し,早期からの機能評価を元に職場の環境調整や代償手段の確立を提案して復職を支援した.コミュニケーション障害の理解を促し,自ら周囲へ働きかけられたことも職場への復帰に有効であった.