[OA-5-1] 脳卒中片麻痺者のリーチ動作におけるGrasp Phaseに着目した作業療法介入効果の検証
【序論】
脳卒中片麻痺者に対する上肢機能向上は作業療法士の主たる介入目的の一つである.中でもリーチ動作は,上肢機能の基本構成要素の一つであるが,把持に着目した運動パターンのアウトカムが少ない.
【目的】 本症例報告は,介入前後におけるリーチ動作の運動学的変化について,把持部分に着目して検討することを目的とした.
【方法】
作業療法1回60分の治療介入の前後で下記の測定課題を実施した.測定課題は前方リーチ動作とし,500mlの水入りペットボトル(以下ボトル)を麻痺側で把持し,50㎝先の到達指標まで運搬した.リーチ動作は対象者の右側方2mの位置からスマートフォン(iPhoneX®,30Hz)を用いて撮影した.撮影されたリーチ動作中のうち,姿勢及び身体座標推定はTensorFlowのMovenetモデルを用い,ボトルキャップ位置はOpen CVによる輪郭抽出及びトラッキングAPIを用いた.推定及び算出された座標は対象者の股関節位置を原点とし,WristマーカのX成分の軌道(以下,Wrist)とボトルキャップ位置のX成分の軌道(以下,Cap)を使用した.これらの軌道のうち,対象者がボトルを把持し前方へ運搬し始めるまでの時間をGrasp Phaseとした.本研究はリハビリテーション天草病院倫理審査委員会の承認の下に実施した.
【症例紹介】
30歳代男性,左被殻出血による右片麻痺.介入時Brs:上肢Ⅴ手指Ⅳ下肢Ⅳ,FIM121/126点(運動:85点 認知:36点),SIAS63点.
【介入時作業療法評価】
ボトルの把持は橈側優位で,ボトルの重心を捉えきれず,肘が高く上がることが顕著.中枢部の努力的な動作により,運搬時のボトルは揺れが大きくなる.動作時の腕の重さも訴えとしてあり,末梢部からの感覚情報とそれに基づく姿勢制御との相互関係が不均衡であると評価した.
【作業療法介入内容】
麻痺側手掌部に圧感覚を加えた中で,上肢帯や体幹での協調運動を引き出した.また手内筋の活性化を図り,末梢からの感覚情報に基づく身体反応を促した.介入全般を通して運動の再現性を引き出すために,運動感覚のfeedbackを強調した.
【結果】
介入前のGrasp Phaseは約1.5秒,介入後は約0.5秒であった.介入前後において,ボトルをつかみ,前方へ運搬するまでの時間が短縮した.グラフの定性的評価において,介入前のGrasp Phaseの後半ではCapのX成分が増減していた一方,介入後のGrasp Phaseの後半ではCapのX成分の増減はなかった.介入後は腕が軽くなったとの感想があった.
【考察】
リーチ動作中のWrist及びCapの軌道を可視化したグラフより,介入後のGrasp Phaseの変化を示すことができた.リーチ動作を安定させるためには,把持が重要な要素となり,運搬相への円滑な移行に繋がると考える.Grasp Phaseへの着目はリーチ動作の改善に有効であり,客観的にも主観的にも手指末梢の感覚情報と姿勢制御との関係性を示唆することができた.
脳卒中片麻痺者に対する上肢機能向上は作業療法士の主たる介入目的の一つである.中でもリーチ動作は,上肢機能の基本構成要素の一つであるが,把持に着目した運動パターンのアウトカムが少ない.
【目的】 本症例報告は,介入前後におけるリーチ動作の運動学的変化について,把持部分に着目して検討することを目的とした.
【方法】
作業療法1回60分の治療介入の前後で下記の測定課題を実施した.測定課題は前方リーチ動作とし,500mlの水入りペットボトル(以下ボトル)を麻痺側で把持し,50㎝先の到達指標まで運搬した.リーチ動作は対象者の右側方2mの位置からスマートフォン(iPhoneX®,30Hz)を用いて撮影した.撮影されたリーチ動作中のうち,姿勢及び身体座標推定はTensorFlowのMovenetモデルを用い,ボトルキャップ位置はOpen CVによる輪郭抽出及びトラッキングAPIを用いた.推定及び算出された座標は対象者の股関節位置を原点とし,WristマーカのX成分の軌道(以下,Wrist)とボトルキャップ位置のX成分の軌道(以下,Cap)を使用した.これらの軌道のうち,対象者がボトルを把持し前方へ運搬し始めるまでの時間をGrasp Phaseとした.本研究はリハビリテーション天草病院倫理審査委員会の承認の下に実施した.
【症例紹介】
30歳代男性,左被殻出血による右片麻痺.介入時Brs:上肢Ⅴ手指Ⅳ下肢Ⅳ,FIM121/126点(運動:85点 認知:36点),SIAS63点.
【介入時作業療法評価】
ボトルの把持は橈側優位で,ボトルの重心を捉えきれず,肘が高く上がることが顕著.中枢部の努力的な動作により,運搬時のボトルは揺れが大きくなる.動作時の腕の重さも訴えとしてあり,末梢部からの感覚情報とそれに基づく姿勢制御との相互関係が不均衡であると評価した.
【作業療法介入内容】
麻痺側手掌部に圧感覚を加えた中で,上肢帯や体幹での協調運動を引き出した.また手内筋の活性化を図り,末梢からの感覚情報に基づく身体反応を促した.介入全般を通して運動の再現性を引き出すために,運動感覚のfeedbackを強調した.
【結果】
介入前のGrasp Phaseは約1.5秒,介入後は約0.5秒であった.介入前後において,ボトルをつかみ,前方へ運搬するまでの時間が短縮した.グラフの定性的評価において,介入前のGrasp Phaseの後半ではCapのX成分が増減していた一方,介入後のGrasp Phaseの後半ではCapのX成分の増減はなかった.介入後は腕が軽くなったとの感想があった.
【考察】
リーチ動作中のWrist及びCapの軌道を可視化したグラフより,介入後のGrasp Phaseの変化を示すことができた.リーチ動作を安定させるためには,把持が重要な要素となり,運搬相への円滑な移行に繋がると考える.Grasp Phaseへの着目はリーチ動作の改善に有効であり,客観的にも主観的にも手指末梢の感覚情報と姿勢制御との関係性を示唆することができた.