[OA-5-3] ストーマを造設した脳卒中片麻痺者のストーマ装具排出口清拭用自助具の紹介
【はじめに】
大腸癌によって人工肛門(以下,ストーマ)を造設した患者にとって,ストーマの自己管理が困難となる要因に脳血管疾患等による上肢の麻痺が報告されている.今回筆者らは,左片麻痺を呈し,ストーマ装具排出口の清拭に介助を要した対象者を担当した.自己管理の確立を目的に自助具を製作した結果,自立できたため紹介する.なお,本報告に際して本人へ説明を行い,同意を得ている.
【事例】
60歳代男性.右視床出血を発症し急性期病院へ入院した後,14病日に当院へ転院し,作業療法開始となった.ストーマは今回の発症から7年前の直腸癌治療時に造設している.初回評価時の主訴は「身の回りのことは自分でやりたい」であった. 心身機能はBRS左上肢Ⅲ,手指Ⅲ,下肢Ⅲで,左上肢の感覚は表在及び深部とも中等度鈍麻,MMSEは29点で,著明な高次脳機能障害は認めなかった.病棟内ADLはFIM63点(運動項目28点,認知項目35点)で,全般に介助を要していた.また,COPMにて「ストーマ装具を自己管理する」は重要度10,遂行度1,満足度1であった.左上下肢の機能練習やADL練習を行い,56病日には病棟内を車椅子で自走し,セルフケアも概ね自立したが,ストーマ装具管理のみ全介助のままであった.特に,排出口内部の清拭に難渋していたため,この工程に焦点を当てた自助具を製作した.
【自助具の形態】
本体は,ベルト(30×530mm:幅×長)を取り付けたPVC素材の板(160×95×3mm:縦×横×厚)の上に,PVCパイプの半周分(48×20×4mm:内径×幅×厚)を固定した構造とした.また,板の裏面には滑り止めシートを,ベルトには折り返し用のDカンを装着した.
【操作手順】
①本体を左大腿上に乗せ,ベルトで巻いて固定する.②ストーマ装具の排出口を広げた状態で板の上に乗せる.③排出口末端のプレートを,パイプの内周に合わせて固定する.④排出口を広げ,内側をトイレットペーパーで清拭する.
【経過】
試作品では手順①における本体の左大腿上への固定を,麻痺手で行う必要があることから不安定となり,本体が落下することもあった.手順③において,PVCパイプ半周分の部材と排出口が不整合で十分に清拭できず,一連の操作に約8分要した.また,試作品本体は木製としたため食品用ラップフィルムで包装していたことと,ベルトが長く先端が便器内の水に浸かってしまい不衛生であった.そこで安定した操作や,汚損時の洗浄と消毒が可能となるように,本体の材質をプラスチック製に変更し,板の裏面へ滑り止めシートを貼り付け,PVCパイプ半周分の部材とベルト長を調整し,操作練習を排泄時に繰り返し行った.その結果,所要時間は約3分に短縮し,衛生も確保できた.110病日にはストーマ装具の管理が自立し「思い通りにできてよかった」との発言が得られた.最終評価時は,BRSに著変なく,左上肢の表在及び深部感覚は軽度鈍麻,病棟内ADLはFIM112点(運動項目77点)となり病棟内生活が自立した.COPMの「ストーマ装具を自己管理する」は遂行度10,満足度8へ向上し,130病日にサービス付き高齢者住宅へ退院した.
【考察】
本自助具が単純な構造であった点がストーマ装具の自己管理を可能にし,衛生に配慮した材質を用いたことが満足感の向上をもたらしたと推察する.本体を左大腿上で固定し,排出口を開放状態で保持できたため,必要な補助手の機能を代償できた.加えて操作手順の明確さが練習を継続させ,自立に至ったと考える.また,本体の素材とベルト長の適切さが衛生に配慮した管理を可能にし,納得のいく自己管理に繋がったのであろう.今後は,本体の堅牢性や製作の容易さについて検討を図りたい.
大腸癌によって人工肛門(以下,ストーマ)を造設した患者にとって,ストーマの自己管理が困難となる要因に脳血管疾患等による上肢の麻痺が報告されている.今回筆者らは,左片麻痺を呈し,ストーマ装具排出口の清拭に介助を要した対象者を担当した.自己管理の確立を目的に自助具を製作した結果,自立できたため紹介する.なお,本報告に際して本人へ説明を行い,同意を得ている.
【事例】
60歳代男性.右視床出血を発症し急性期病院へ入院した後,14病日に当院へ転院し,作業療法開始となった.ストーマは今回の発症から7年前の直腸癌治療時に造設している.初回評価時の主訴は「身の回りのことは自分でやりたい」であった. 心身機能はBRS左上肢Ⅲ,手指Ⅲ,下肢Ⅲで,左上肢の感覚は表在及び深部とも中等度鈍麻,MMSEは29点で,著明な高次脳機能障害は認めなかった.病棟内ADLはFIM63点(運動項目28点,認知項目35点)で,全般に介助を要していた.また,COPMにて「ストーマ装具を自己管理する」は重要度10,遂行度1,満足度1であった.左上下肢の機能練習やADL練習を行い,56病日には病棟内を車椅子で自走し,セルフケアも概ね自立したが,ストーマ装具管理のみ全介助のままであった.特に,排出口内部の清拭に難渋していたため,この工程に焦点を当てた自助具を製作した.
【自助具の形態】
本体は,ベルト(30×530mm:幅×長)を取り付けたPVC素材の板(160×95×3mm:縦×横×厚)の上に,PVCパイプの半周分(48×20×4mm:内径×幅×厚)を固定した構造とした.また,板の裏面には滑り止めシートを,ベルトには折り返し用のDカンを装着した.
【操作手順】
①本体を左大腿上に乗せ,ベルトで巻いて固定する.②ストーマ装具の排出口を広げた状態で板の上に乗せる.③排出口末端のプレートを,パイプの内周に合わせて固定する.④排出口を広げ,内側をトイレットペーパーで清拭する.
【経過】
試作品では手順①における本体の左大腿上への固定を,麻痺手で行う必要があることから不安定となり,本体が落下することもあった.手順③において,PVCパイプ半周分の部材と排出口が不整合で十分に清拭できず,一連の操作に約8分要した.また,試作品本体は木製としたため食品用ラップフィルムで包装していたことと,ベルトが長く先端が便器内の水に浸かってしまい不衛生であった.そこで安定した操作や,汚損時の洗浄と消毒が可能となるように,本体の材質をプラスチック製に変更し,板の裏面へ滑り止めシートを貼り付け,PVCパイプ半周分の部材とベルト長を調整し,操作練習を排泄時に繰り返し行った.その結果,所要時間は約3分に短縮し,衛生も確保できた.110病日にはストーマ装具の管理が自立し「思い通りにできてよかった」との発言が得られた.最終評価時は,BRSに著変なく,左上肢の表在及び深部感覚は軽度鈍麻,病棟内ADLはFIM112点(運動項目77点)となり病棟内生活が自立した.COPMの「ストーマ装具を自己管理する」は遂行度10,満足度8へ向上し,130病日にサービス付き高齢者住宅へ退院した.
【考察】
本自助具が単純な構造であった点がストーマ装具の自己管理を可能にし,衛生に配慮した材質を用いたことが満足感の向上をもたらしたと推察する.本体を左大腿上で固定し,排出口を開放状態で保持できたため,必要な補助手の機能を代償できた.加えて操作手順の明確さが練習を継続させ,自立に至ったと考える.また,本体の素材とベルト長の適切さが衛生に配慮した管理を可能にし,納得のいく自己管理に繋がったのであろう.今後は,本体の堅牢性や製作の容易さについて検討を図りたい.