[OA-6-1] 脳損傷者における外眼筋麻痺スケールの開発と信頼性・妥当性の検討
【序論】脳損傷者の37%は,何らかの眼球運動障害を呈する(Fowler MS, et al. 1996).演者らは2021年の本学会において,外眼筋麻痺を伴う脳損傷者に対し,独自に開発した眼球運動リハビリテーションプログラムの効果をケースコントロール研究にて報告した.その中で,臨床で簡便に使用できる,外眼筋麻痺の評価スケールの開発が今後の課題であった.
【目的】本研究は,脳損傷者における外眼筋麻痺スケール(以下;Scale for Ophthalmoplegia in Brain-Injured Patients:SOB)を開発し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした.
【方法】SOBの開発:SOBは,システマティックレビューにより,過去に有用とされる外眼筋麻痺の評価方法を抽出し,有識者との協議を経て開発した.SOBの項目は,①眼瞼下垂の有無,②正中視での斜視の程度,③方向視での斜視の程度,④輻輳反射出現の有無,⑤複視の程度から構成されている.①~④は対象の正中視,左右への方向視,輻輳の様子を前方から観察評価,⑤は自覚所見の聴取により評価を行い,9点満点のスケール(9点を外眼筋麻痺最重度,0点を外眼筋麻痺なし)とした.検者:臨床経験の異なる急性期病院に従事する作業療法士4名(臨床経験;A:18年,B:5年,C:4年,D:1年)を検者とした.分析対象は,外眼筋麻痺を呈した脳損傷者20例(年齢;57.2±16.4歳,性別;男性12例,女性8例,発症からの期間;5.2±2.7週)の正中視,方向視,輻輳の動画データ,複視の有無に関わる診療記録とした.研究手順:①検者にSOBの評価用紙とマニュアルを提示し,10分ほどのレクチャーを実施,②同日に分析対象20例の正中視,方向視,輻輳の様子を記録した動画を視聴,複視の有無に関わる診療記録を確認し,SOB初回評価を実施,③1週間後に②と同様の分析対象に対し再評価を実施した.動画は繰り返し視聴可能としたが,静止画で評価することは禁止とし,1例ごとに評価時間を測定した.分析:検者内信頼性の検討のため,検者のSOB初回評価,再評価の結果から級内相関係数(ICC)(1, 1)を求めた.検者間信頼性の検討のため,検者4名の初回評価,再評価結果から,それぞれのICC(2, 1)を求めた.基準関連妥当性において,外的基準は斜視角とした.斜視角は,方向視における眼位のずれをHASX-Viewer(ディテクト社製)を用いて解析したものであり,外眼筋麻痺の程度を正確に表すものである.分析対象のSOBの結果(検者4名計8データ)と斜視角から,それぞれSpearmanの順位相関係数を求めた.統計解析にはJMP Pro Ver17を使用し,有意水準は5%未満とした.倫理手続き:本研究は当施設倫理委員会の承認を得ている(承認番号:2023-214-B).
【結果】1例にかかったSOB①~④の評価時間は,48.0±9.2秒であった.ICC(1, 1)は検者A:0.979,B:0.903,C:0.895,D:0.795,ICC(2, 1)は初回評価0.861,再評価0.835であり,検者内・検者間信頼性は良好であった.SOBと斜視角の相関は,r=0.784~0.953(p<0.05)であり,高い基準関連妥当性を認めた.
【考察】本研究の結果,SOBは短時間で評価可能なスケールであり,検者内・検者間信頼性,基準関連妥当性が高いことが示された.外眼筋麻痺は生活に大きな不自由を与える病態であり(Watabe, et al. 2021),作業療法士による積極的な介入が求められる.本研究は動画データを用いて測定しているため,実際の臨床場面での測定への言及に限界があるものの,外眼筋麻痺を簡便に定量化できるスケールは過去になく,SOBは臨床で普及されるべき評価スケールであると考える.
【目的】本研究は,脳損傷者における外眼筋麻痺スケール(以下;Scale for Ophthalmoplegia in Brain-Injured Patients:SOB)を開発し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした.
【方法】SOBの開発:SOBは,システマティックレビューにより,過去に有用とされる外眼筋麻痺の評価方法を抽出し,有識者との協議を経て開発した.SOBの項目は,①眼瞼下垂の有無,②正中視での斜視の程度,③方向視での斜視の程度,④輻輳反射出現の有無,⑤複視の程度から構成されている.①~④は対象の正中視,左右への方向視,輻輳の様子を前方から観察評価,⑤は自覚所見の聴取により評価を行い,9点満点のスケール(9点を外眼筋麻痺最重度,0点を外眼筋麻痺なし)とした.検者:臨床経験の異なる急性期病院に従事する作業療法士4名(臨床経験;A:18年,B:5年,C:4年,D:1年)を検者とした.分析対象は,外眼筋麻痺を呈した脳損傷者20例(年齢;57.2±16.4歳,性別;男性12例,女性8例,発症からの期間;5.2±2.7週)の正中視,方向視,輻輳の動画データ,複視の有無に関わる診療記録とした.研究手順:①検者にSOBの評価用紙とマニュアルを提示し,10分ほどのレクチャーを実施,②同日に分析対象20例の正中視,方向視,輻輳の様子を記録した動画を視聴,複視の有無に関わる診療記録を確認し,SOB初回評価を実施,③1週間後に②と同様の分析対象に対し再評価を実施した.動画は繰り返し視聴可能としたが,静止画で評価することは禁止とし,1例ごとに評価時間を測定した.分析:検者内信頼性の検討のため,検者のSOB初回評価,再評価の結果から級内相関係数(ICC)(1, 1)を求めた.検者間信頼性の検討のため,検者4名の初回評価,再評価結果から,それぞれのICC(2, 1)を求めた.基準関連妥当性において,外的基準は斜視角とした.斜視角は,方向視における眼位のずれをHASX-Viewer(ディテクト社製)を用いて解析したものであり,外眼筋麻痺の程度を正確に表すものである.分析対象のSOBの結果(検者4名計8データ)と斜視角から,それぞれSpearmanの順位相関係数を求めた.統計解析にはJMP Pro Ver17を使用し,有意水準は5%未満とした.倫理手続き:本研究は当施設倫理委員会の承認を得ている(承認番号:2023-214-B).
【結果】1例にかかったSOB①~④の評価時間は,48.0±9.2秒であった.ICC(1, 1)は検者A:0.979,B:0.903,C:0.895,D:0.795,ICC(2, 1)は初回評価0.861,再評価0.835であり,検者内・検者間信頼性は良好であった.SOBと斜視角の相関は,r=0.784~0.953(p<0.05)であり,高い基準関連妥当性を認めた.
【考察】本研究の結果,SOBは短時間で評価可能なスケールであり,検者内・検者間信頼性,基準関連妥当性が高いことが示された.外眼筋麻痺は生活に大きな不自由を与える病態であり(Watabe, et al. 2021),作業療法士による積極的な介入が求められる.本研究は動画データを用いて測定しているため,実際の臨床場面での測定への言及に限界があるものの,外眼筋麻痺を簡便に定量化できるスケールは過去になく,SOBは臨床で普及されるべき評価スケールであると考える.