[OA-6-4] 脳血管障害を有したクライエントにおけるAPO-15を活用した作業療法実践の臨床有用性:事例研究
【序論】
脳血管障害などの慢性疾患を抱えている場合,うつなどの精神的問題を経験する可能性があり,その確率は30~50%といわれている(Simon,2001;Ayerbeら,2013).わが国の作業療法には,上述した課題に貢献できる評価ツールとしてポジティブ作業評価(以下,APO-15)がある(野口ら,2016).APO-15とは,人間のWell-Being(以下,幸福)を促進する可能性を有したポジティブ作業にクライエントがどの程度関われているかを測定できる評価尺度である.他方,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期)の作業療法では,APO-15を活用した報告は皆無である.
【目的】
回復期入院中のクライエントを対象にAPO-15を活用した作業療法実践の有用性を探索的検討する.
【方法】
対象者の選定基準は,1)身体疾患の診断を受け,作業療法の対象となる者,2)調査用紙に記載された文章内容が理解できる者,3)APO-15の関与度推定システム(以下,EES)による5段階評価から,ポジティブ作業への参加を支援する必要が判断された者(ランク4以下),4)本研究に同意した者とした.本研究は,この基準を満たす2名(事例1:60代男性,右脳梗塞,ランク1,事例2:60代女性,右脳梗塞,ランク2)が対象となった.研究デザインは,ベースライン期(以下,A期)[入院~4週間],介入期(以下,B期)[4週間後~退院時]の前後比較で介入効果の有無を検討した.データ収集は,ベースライン前後と介入後の3時点で行った.介入方法は,A期は脳卒中のための作業療法ガイドラインに基づく治療を提供した.B期では,A期の介入内容に加え,APO-15の回答結果を基に面接で聴取された意味のある作業,EESの結果で示されたクライエントの状態に適したポジティブ作業を組み合わせて支援した.効果指標は,日本版主観的幸福感尺度(以下,SHS),Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA),機能的自立度評価表(以下,FIM),APO-15を使用した.本研究は当院倫理委員会の承認[2023-12-01],対象者の同意を得て実施した.
【結果】
本実践の結果,支援期間は事例1[8週間],事例2[12週間]となった.また本実践は,APO-15の評価結果から支援目標を共有して支援した(事例1:「料理ができることに向けた行動ができる」,事例2:「身の回りのことができること,お店に立つことに向けた行動ができる」).その結果,2名の事例は全ての効果指標で肯定的な変化を示した(事例1:SHS[4.3→4→5],FMA[148→152→160],FIM[96→110→123],EES[1→1→4]),(事例2:SHS[2.8→3→5.5],FMA[174→185→210],FIM[102→120→122],EES[2→3→5]).
【考察】
本実践の知見から,APO-15を活用した作業療法実践は,回復期の支援期間でもクライエントのアウトカムに肯定的な影響を与える可能性を示唆した.先行研究によると,クライエントの意味のある作業への参加は主観的幸福感の促進に肯定的な影響があると報告されている(Egan,2014;木下ら,2021).またIkiuguら(2015)は,心理的にやりがいのある作業への参加が,意味のある作業への参加よりも一貫して没頭体験やポジティブ感情などの心理的報酬を常にもたらす可能性を報告している.つまり,本実践はAPO-15を通じた意味のある作業とクライエントの状態に応じたポジティブ作業を組み合わせて支援できたことが機能面や活動面だけではなく,心理面にも肯定的な影響を与えたと考えられる.今後は,本実践の有用性について対象者数を増やし,退院後の精神状態における影響も含めて検証する必要がある.
脳血管障害などの慢性疾患を抱えている場合,うつなどの精神的問題を経験する可能性があり,その確率は30~50%といわれている(Simon,2001;Ayerbeら,2013).わが国の作業療法には,上述した課題に貢献できる評価ツールとしてポジティブ作業評価(以下,APO-15)がある(野口ら,2016).APO-15とは,人間のWell-Being(以下,幸福)を促進する可能性を有したポジティブ作業にクライエントがどの程度関われているかを測定できる評価尺度である.他方,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期)の作業療法では,APO-15を活用した報告は皆無である.
【目的】
回復期入院中のクライエントを対象にAPO-15を活用した作業療法実践の有用性を探索的検討する.
【方法】
対象者の選定基準は,1)身体疾患の診断を受け,作業療法の対象となる者,2)調査用紙に記載された文章内容が理解できる者,3)APO-15の関与度推定システム(以下,EES)による5段階評価から,ポジティブ作業への参加を支援する必要が判断された者(ランク4以下),4)本研究に同意した者とした.本研究は,この基準を満たす2名(事例1:60代男性,右脳梗塞,ランク1,事例2:60代女性,右脳梗塞,ランク2)が対象となった.研究デザインは,ベースライン期(以下,A期)[入院~4週間],介入期(以下,B期)[4週間後~退院時]の前後比較で介入効果の有無を検討した.データ収集は,ベースライン前後と介入後の3時点で行った.介入方法は,A期は脳卒中のための作業療法ガイドラインに基づく治療を提供した.B期では,A期の介入内容に加え,APO-15の回答結果を基に面接で聴取された意味のある作業,EESの結果で示されたクライエントの状態に適したポジティブ作業を組み合わせて支援した.効果指標は,日本版主観的幸福感尺度(以下,SHS),Fugl-Meyer Assessment(以下,FMA),機能的自立度評価表(以下,FIM),APO-15を使用した.本研究は当院倫理委員会の承認[2023-12-01],対象者の同意を得て実施した.
【結果】
本実践の結果,支援期間は事例1[8週間],事例2[12週間]となった.また本実践は,APO-15の評価結果から支援目標を共有して支援した(事例1:「料理ができることに向けた行動ができる」,事例2:「身の回りのことができること,お店に立つことに向けた行動ができる」).その結果,2名の事例は全ての効果指標で肯定的な変化を示した(事例1:SHS[4.3→4→5],FMA[148→152→160],FIM[96→110→123],EES[1→1→4]),(事例2:SHS[2.8→3→5.5],FMA[174→185→210],FIM[102→120→122],EES[2→3→5]).
【考察】
本実践の知見から,APO-15を活用した作業療法実践は,回復期の支援期間でもクライエントのアウトカムに肯定的な影響を与える可能性を示唆した.先行研究によると,クライエントの意味のある作業への参加は主観的幸福感の促進に肯定的な影響があると報告されている(Egan,2014;木下ら,2021).またIkiuguら(2015)は,心理的にやりがいのある作業への参加が,意味のある作業への参加よりも一貫して没頭体験やポジティブ感情などの心理的報酬を常にもたらす可能性を報告している.つまり,本実践はAPO-15を通じた意味のある作業とクライエントの状態に応じたポジティブ作業を組み合わせて支援できたことが機能面や活動面だけではなく,心理面にも肯定的な影響を与えたと考えられる.今後は,本実践の有用性について対象者数を増やし,退院後の精神状態における影響も含めて検証する必要がある.