[OA-6-5] 脳動静脈奇形破裂を呈した境界知能領域の子どもに対するCO-OPの実践
【はじめに】Cognitive Orientation to daily Occupational Performance(CO-OP)は,クライエントが選択した課題に対して,認知戦略を用いて解決を図る課題指向的アプローチである.近年,成人の脳血管障害者に対する実践報告は散見されるが,境界知能領域にある脳血管障害児を対象にした報告例は見当たらない.今回,脳動静脈奇形破裂を呈した境界知能領域にある自閉スペクトラム症(ASD)児に対してCO-OPを適用し,本児のニーズである下衣更衣,排泄のスキル習得に至った.境界知能領域にある脳血管障害児においてCO-OPを適用する意義を検討する.
【事例紹介】中学生男児,右利き.ASD.普通級に在籍.頭痛にて他院受診後,当院へ転院搬送され,破裂脳動静脈奇形摘出術及び開頭減圧術施行.第10病日より作業療法開始.初期評価時の神経学的所見にて,BRS上肢Ⅱ手指Ⅴ下肢Ⅲ,表在感覚は,触覚刺激にて消去現象,痛覚は脱失.深部感覚は,母指探し試験Ⅲ度.神経心理学的所見にて,WISC-Ⅲ全検査IQ74,RCPM32点,HDS-R29点,MMSE25点,TMT-JはセットA58秒/セットB68秒と,境界知能,注意障害,左半側空間無視を認める.FIM33点(運動項目13点,認知項目20点).デマンドは「できることを増やす.」である.尚,本報告に際し書面にて保護者の同意を得ている.
【経過】ADL自立を目的に,介入前期は麻痺手の機能・活動・参加レベルの改善,介助量の軽減を目標とした.訓練は,上肢機能訓練,ADL訓練(40~60分/回)を計26回実施した.第41病日には,麻痺手の改善もあり,ADLは見守りまで改善したが,下衣更衣や排泄において本児は他者へ介助を依頼していた.「前に練習したけどうろ覚えで疲れる.どうやったら楽にできるか分からない.」という本児の発言を受け,介入方針を再検討した.介入後期は作業遂行における問題解決技能の習熟を目標に,下衣更衣や排泄に対して,CO-OPを1日40分程度にて3日間適用した.下衣更衣では,ガイドされた発見にて「脚組み柵作戦」と称し,靴着脱時に脚を組む方略を実動作に般化でき,「掴まるところがあるといい」と自発的に環境調整を考案した.排泄では,ガイドされた発見にて「左手ストップ作戦」と称し,非麻痺手で手すりを把持して体幹前傾位を安定させたことを確認してから清拭を行う方略を実動作に般化できた.看護師や両親には,極力事例自身で下衣更衣や排泄を試みるよう依頼した.
【結果】最終評価時は,神経学的所見にてBRS上肢Ⅴ手指Ⅵ下肢Ⅲ.FMA-UE64点.ARAT右57点/左57点.MAL-14はAOU3.8,QOM3.8.神経心理学的所見にてRCPM34点,HDS-R30点,MMSE29点,TMT-JはセットA21秒/セットB38秒と改善を認めた.COPM は,下衣更衣:遂行度6→10満足度6→10,排泄:遂行度7→9満足度6→8,PQRSは下衣更衣4→10,排泄6→9.ADLは自立し,FIM103点(運動項目68点,認知項目35点).第49病日に回復期病院へ転院となった.
【考察】改善は自然回復の要因も考慮されるべきだが,結果として,CO-OPを適用した項目のCOPM,PQRSにおいてMCIDを超える改善を得た.堀田ら(2017)は,境界知能領域にあるASD児に対して,繰り返し情報を思い出し,それを出力する学習である反復検索学習による支援を行い,有意に忘却率の低下を認めたと報告している.CO-OPは,認知ストラテジーの使用にて対象者自身で課題の目標設定・計画・実行・確認を反復する作業を求められ,反復検索学習の要素を含んでいると考えられる.また,事例は近時記憶が保持され,CO-OPにて障害されていないモダリティの活用を行ったことが,下衣更衣,排泄における問題解決技能の習熟に寄与し,ADL自立に至った可能性を考える.
【事例紹介】中学生男児,右利き.ASD.普通級に在籍.頭痛にて他院受診後,当院へ転院搬送され,破裂脳動静脈奇形摘出術及び開頭減圧術施行.第10病日より作業療法開始.初期評価時の神経学的所見にて,BRS上肢Ⅱ手指Ⅴ下肢Ⅲ,表在感覚は,触覚刺激にて消去現象,痛覚は脱失.深部感覚は,母指探し試験Ⅲ度.神経心理学的所見にて,WISC-Ⅲ全検査IQ74,RCPM32点,HDS-R29点,MMSE25点,TMT-JはセットA58秒/セットB68秒と,境界知能,注意障害,左半側空間無視を認める.FIM33点(運動項目13点,認知項目20点).デマンドは「できることを増やす.」である.尚,本報告に際し書面にて保護者の同意を得ている.
【経過】ADL自立を目的に,介入前期は麻痺手の機能・活動・参加レベルの改善,介助量の軽減を目標とした.訓練は,上肢機能訓練,ADL訓練(40~60分/回)を計26回実施した.第41病日には,麻痺手の改善もあり,ADLは見守りまで改善したが,下衣更衣や排泄において本児は他者へ介助を依頼していた.「前に練習したけどうろ覚えで疲れる.どうやったら楽にできるか分からない.」という本児の発言を受け,介入方針を再検討した.介入後期は作業遂行における問題解決技能の習熟を目標に,下衣更衣や排泄に対して,CO-OPを1日40分程度にて3日間適用した.下衣更衣では,ガイドされた発見にて「脚組み柵作戦」と称し,靴着脱時に脚を組む方略を実動作に般化でき,「掴まるところがあるといい」と自発的に環境調整を考案した.排泄では,ガイドされた発見にて「左手ストップ作戦」と称し,非麻痺手で手すりを把持して体幹前傾位を安定させたことを確認してから清拭を行う方略を実動作に般化できた.看護師や両親には,極力事例自身で下衣更衣や排泄を試みるよう依頼した.
【結果】最終評価時は,神経学的所見にてBRS上肢Ⅴ手指Ⅵ下肢Ⅲ.FMA-UE64点.ARAT右57点/左57点.MAL-14はAOU3.8,QOM3.8.神経心理学的所見にてRCPM34点,HDS-R30点,MMSE29点,TMT-JはセットA21秒/セットB38秒と改善を認めた.COPM は,下衣更衣:遂行度6→10満足度6→10,排泄:遂行度7→9満足度6→8,PQRSは下衣更衣4→10,排泄6→9.ADLは自立し,FIM103点(運動項目68点,認知項目35点).第49病日に回復期病院へ転院となった.
【考察】改善は自然回復の要因も考慮されるべきだが,結果として,CO-OPを適用した項目のCOPM,PQRSにおいてMCIDを超える改善を得た.堀田ら(2017)は,境界知能領域にあるASD児に対して,繰り返し情報を思い出し,それを出力する学習である反復検索学習による支援を行い,有意に忘却率の低下を認めたと報告している.CO-OPは,認知ストラテジーの使用にて対象者自身で課題の目標設定・計画・実行・確認を反復する作業を求められ,反復検索学習の要素を含んでいると考えられる.また,事例は近時記憶が保持され,CO-OPにて障害されていないモダリティの活用を行ったことが,下衣更衣,排泄における問題解決技能の習熟に寄与し,ADL自立に至った可能性を考える.