第58回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-7] 一般演題:脳血管疾患等 7

Sat. Nov 9, 2024 3:40 PM - 4:40 PM C会場 (107・108)

座長:石川 哲也(済生会神奈川県病院 )

[OA-7-1] 脳卒中片麻痺者の下衣を上げる動作の分析

~操作時間と運動学運動力学的指標の関連性~

黒田 悠葵1, 本島 直之2, 川邊 圭太1, 生田 純一1 (1.農協共済中伊豆リハビリテーション, 2.昭和大学)

【序論】脳卒中片麻痺者にとって排泄動作に介助を要すことは深刻な問題であり抑うつ(Ayerbe2011),社会参加(Felde2012), Quality of Lifeの低下(Dhamoon2010)と関連している.排泄動作は複数の工程で構成されているが,特に下衣を上げる動作は最も獲得することが難しい動作である(Kawanabe,2018).従来,下衣を上げる動作は安定性と操作時間を基に分析が行われてきた(鳥居2019,Hiragami2018).これらの報告にて共通した知見として,操作時間が早く遂行できることは監視から自立へ移行するために必要な要素であることや効率的なパフォーマンスを示すとされている.そこで本研究では下衣を上げる動作の操作時間と運動学運動力学的指標の関連性を明らかとすることを目的とした.
【目的】本研究は下衣を上げる動作の操作時間と運動学運動力学的指標の関連性を明らかとすることを目的とした.これらの関連性を整理することで下衣を上げる動作を効率的に遂行するために必要な練習方法を考案する一助となると考える.
【方法】対象は,脳卒中片麻痺者36名(年齢56.6±13.3歳,男性27名,女性9名,下肢Br.stage Ⅲ5名,Ⅳ16名,Ⅴ12名,Ⅵ3名)である.対象基準はFIMのトイレ項目が6点以上の者を対象とした.除外基準は重度な認知機能障害,感覚障害,運動失調を呈している者とした.計測は三次元動作解析装置と床反力計を使用し下衣を上げる動作を計測した.計測区間は体幹を屈曲し下衣を把持する動作(以下,下方リーチ),健側の下衣を上げる動作(以下,健側操作),麻痺側の下衣を上げる動作(以下,麻痺側操作)の3期間に分けて分析を行った.抽出項目は各期間の操作時間,体幹屈曲角度,体幹回旋角度,骨盤回旋角度,麻痺側下肢荷重率,前後左右の重心移動幅を抽出した.統計学的検定として各期間の操作時間と運動学運動力学的結果の関係をPearsonの相関係数にて検定した.その後,従属変数を各時期の操作時間とし,相関分析の結果,各期間の操作時間と有意な関連性を認めた項目を要因に投入した重回帰分析を行った(強制投入法).有意水準は5%とした.本研究は所属病院の倫理審査員会によって承認されている.
【結果】相関分析の結果,下方リーチ時間と前後重心移動幅(r=0.57,p=0.00),健側操作時間は麻痺側下肢荷重率(r=−0.36,p=0.03)と左右重心移動幅(r=−0.34,p=0.03),麻痺側操作時間は体幹回旋角度(r=0.45,p=0.00)と麻痺側下肢荷重率(r=−0.44,p=0.01)に有意な関連を認めた.
重回帰分析の結果,下方リーチは前後重心移動幅(β=0.57,p=0.00),健側操作は麻痺側下肢荷重率(β=−0.57,p=0.00),麻痺側操作は体幹回旋角度(β=−0.40,p=0.01),麻痺側下肢荷重率(β=−0.39,p=0.01)が有意な項目として抽出された(調整済みR2:各操作0.3).
【考察】先行研究では体幹を大きく動かせること,健側下肢にてバランスを制御できることが重要であると報告されてきた(鳥居2019,Hiragami2018,横塚2015).しかし,これらは3つの操作について考慮したものではなく,下衣を上げる動作を包括的に分析した研究を基に推奨されている.本研究の結果から各操作において要求される能力は異なっており,下方リーチは前後バランスが制御できること,健側操作は対称的な姿勢であること,麻痺側操作は麻痺側下肢への荷重量が大きく,体幹回旋角度が小さいこと,以上の特徴を示す者ほど効率的に遂行できることが明らかとなった.以上の新規的知見は得られたものの各項目の影響度は大きくないため結果の解釈には留意する必要がある.
しかし,今回の結果から下衣を上げる動作を効率的に遂行するために下方リーチは前後バランス練習,健側操作と麻痺側操作は麻痺側下肢に負荷を掛けるような練習を行うことが重要であると推測する.