[OA-7-4] トイレ動作自立と認知機能(Cognitive-related Behavioral Assessment)の関連性について
【はじめに】回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ病棟)では,在宅復帰を目指しより効果的な自立度の向上が求められている.Activities of daily living(以下,ADL)の中でも,トイレ動作は頻度の高い動作であり,患者や家族が早期に自立を望むADLの一つである.また,脳卒中患者に求められる自宅復帰の条件として,トイレ動作が自立または最低でも監視レベルの能力が必要であるとの報告もある.先行研究では,身体機能とトイレ動作の関連性について述べられたものが多いが,認知機能とトイレ動作の関連性についての報告は少ない.本研究では,認知機能の行動観察評価であり,Functional Independence Measure(以下,FIM)との強い相関が示されている認知関連行動アセスメント(Cognitive-related Behavioral Assessment:以下,CBA)を用いて,トイレ動作自立における認知機能の関連性について検討したので報告する.
【目的】トイレ動作自立の検討を正確に行えるよう,トイレ動作と認知機能の関連性を明らかにすること.
【対象と方法】今回,令和4年4月から5年3月までの間に当院回リハ病棟を退院した患者609名のうち脳卒中患者420名を対象(男性254名,女性166名.平均年齢70.6±14.7歳)とした.解析方法は,FIMにおけるトイレ動作6点以上を自立,5点以下を非自立の二群とし,年齢,在院日数,FIM運動項目,トイレ移乗,移動,CBA合計点,CBA下位項目をMann−WhitneyのU検定を用いて比較した.さらに,トイレ動作の自立と認知機能との関連性をみるため,トイレ動作自立の有無を従属変数,有意差が認められた項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った.トイレ自立に関連性を認めた項目については,ROC曲線を作成しカットオフ値を算出した.
なお本研究は,当院の倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】自立群(250名,平均年齢70.6±14.7),非自立群(170名,平均年齢70.6±14.7)の二群間にて,年齢,在院日数,FIM運動項目,移乗(トイレ),移動,CBA合計点,CBA下位項目に有意差を認めた(P<0.05).ロジスティック回帰分析では,トイレ動作自立とCBA総合得点(オッズ比1.26,95%信頼区間:1.05-1.52,P値:0.01)にて優位な関連を認めた.なおCBA下位項目は優位な関連を認めなかった.ROC曲線は,トイレ動作自立の可否を判別するカットオフ値21点(AUC 0.92,95%信頼区間:0.90-0.95,感度0.90,特異度0.81)であった.
【考察】今回の研究により,トイレ動作の自立には認知機能が関わっていることが示された.伊藤らはCBA重症度分類において23~28点を軽度とし,23点以上であることがADLや歩行の自立に関連あると報告している.また,昨年度の当学会で早朝リハビリでの更衣動作自立についての可否を判断するCBAカットオフ値は23点であったことを報告した.しかし今回の研究において,トイレ動作自立の可否を判断するCBAカットオフ値は21点(中等度)と算出された.先行研究と比較し,トイレ動作自立のカットオフ値が低かった理由としては,それぞれのADL動作の難易度が異なっており,それらが認知面に関与していると考える.またCBA21点かつFIM5~7点の患者のCBA下位項目内訳を見ると,意識・感情4点,注意・記憶3~4点,判断・病識3点であった.CBAは階層性があるとされているがCBA21点の群では,注意や記憶では患者によっていずれかで低下を認め,判断や病識は低下している者がほとんどであった.そのため身体機能低下による転倒リスクに関する認識を高めるための関わりや環境調整が,トイレ動作自立に必要であり重要と考える.
【目的】トイレ動作自立の検討を正確に行えるよう,トイレ動作と認知機能の関連性を明らかにすること.
【対象と方法】今回,令和4年4月から5年3月までの間に当院回リハ病棟を退院した患者609名のうち脳卒中患者420名を対象(男性254名,女性166名.平均年齢70.6±14.7歳)とした.解析方法は,FIMにおけるトイレ動作6点以上を自立,5点以下を非自立の二群とし,年齢,在院日数,FIM運動項目,トイレ移乗,移動,CBA合計点,CBA下位項目をMann−WhitneyのU検定を用いて比較した.さらに,トイレ動作の自立と認知機能との関連性をみるため,トイレ動作自立の有無を従属変数,有意差が認められた項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った.トイレ自立に関連性を認めた項目については,ROC曲線を作成しカットオフ値を算出した.
なお本研究は,当院の倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】自立群(250名,平均年齢70.6±14.7),非自立群(170名,平均年齢70.6±14.7)の二群間にて,年齢,在院日数,FIM運動項目,移乗(トイレ),移動,CBA合計点,CBA下位項目に有意差を認めた(P<0.05).ロジスティック回帰分析では,トイレ動作自立とCBA総合得点(オッズ比1.26,95%信頼区間:1.05-1.52,P値:0.01)にて優位な関連を認めた.なおCBA下位項目は優位な関連を認めなかった.ROC曲線は,トイレ動作自立の可否を判別するカットオフ値21点(AUC 0.92,95%信頼区間:0.90-0.95,感度0.90,特異度0.81)であった.
【考察】今回の研究により,トイレ動作の自立には認知機能が関わっていることが示された.伊藤らはCBA重症度分類において23~28点を軽度とし,23点以上であることがADLや歩行の自立に関連あると報告している.また,昨年度の当学会で早朝リハビリでの更衣動作自立についての可否を判断するCBAカットオフ値は23点であったことを報告した.しかし今回の研究において,トイレ動作自立の可否を判断するCBAカットオフ値は21点(中等度)と算出された.先行研究と比較し,トイレ動作自立のカットオフ値が低かった理由としては,それぞれのADL動作の難易度が異なっており,それらが認知面に関与していると考える.またCBA21点かつFIM5~7点の患者のCBA下位項目内訳を見ると,意識・感情4点,注意・記憶3~4点,判断・病識3点であった.CBAは階層性があるとされているがCBA21点の群では,注意や記憶では患者によっていずれかで低下を認め,判断や病識は低下している者がほとんどであった.そのため身体機能低下による転倒リスクに関する認識を高めるための関わりや環境調整が,トイレ動作自立に必要であり重要と考える.