[OA-8-3] 維持期脳卒中患者の手の障害に対する電気刺激とロボット支援を用いた作業療法の効果
【序論】脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチとして,電気刺激やロボットなどを用いた物理療法は比較的重症例でも適応となる可能性があり,急性期から併用されることが推奨されている.近年,携帯型の物理療法機器が増えてきており,在宅での作業療法に持参することが可能である.しかし,維持期での作業療法において,なかでも手の障害に対する物理療法の使用頻度はまだまだ少ない.また,電気刺激療法とロボット療法の優位性は不明である.
【目的】今回,脳卒中後の手の障害に対する在宅での電気刺激療法とロボット療法の効果を検証するためのクロスオーバー比較試験の予備的事例研究において,維持期脳卒中患者の作業療法に電気刺激とロボット支援を併用し,上肢機能が改善した症例を経験したため,その経過と地域・在宅領域の作業療法での物理療法の有用性について報告する.
【方法】本研究は,A-B-C-Aデザインの事例研究である.標準的な作業療法のみ(A1),随意運動介助型機能的電気刺激を加えた作業療法(B),ソフトロボットグローブを用いた作業療法(C),2回目の標準的な作業療法のみ(A2) を行う4期で構成した.作業療法は,週3回の通所リハビリテーションのなかで各期10セッションを実施した.主な訓練内容はアクリルコーンの操作であった.上肢機能評価は,各期の前後に,簡易上肢機能検査 (STEF),Fugl-Meyer Assessment - Upper Extremity (FMA-UE),Motor Activity Log (MAL - Amount of Use [AOU],Quality of Movement [QOM])を行った.日常生活活動評価には,Functional Independence Measure (FIM)とFrenchay Activities Index (FAI)を用いた.
症例は70代・女性(主婦),右小脳出血後42ヶ月が経過し,NIH Stroke Scale 5点,右片麻痺(Brunnstrom stage 上肢5/手指5/下肢4),利き手と歩行に失調症状を認めた(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia [SARA] 10.5点).希望は立位・歩行の安定であり,バランス・歩行訓練も実施した.改訂長谷川式認知症スケール29点,FIM合計114点,FAI 17点であった.
なお,本研究について所属施設長より承認を得た上で実施した.また,本人に対して説明を行い,書面にて同意を得た.
【結果】 A1の前後では,右STEFが73から75点,MAL-AOUが3.2から3.0へ変化したが,MAL-QOMは3.6,FMA-UEは56点から変化しなかった.次いで,BとCの後で,右STEFが80点と83点,FMA-UEが60点と62点,MAL-AOUが3.4と4.0に向上し,MAL-QOMが3.4と3.8に変化した.そして,A2の後でも,右STEFとFMA-UEは得点を維持し,MAL-AOUとMAL-QOMはどちらも4.2へ向上した(A1→, B ↑, C ↑, A2→).また,Cの後からFAIが20点に向上し,A2の後でも維持した.FIM合計は研究期間中に変化なかったが,立位バランスが改善した (SARA 9.5点).
【考察】本研究では,標準的な作業療法に電気刺激とロボットを併用することで,維持期脳卒中患者であっても手の障害を即時的に改善すること,短期の持続効果があることを示唆した.また,FMA-UEとMALの改善度はMinimal Important DifferenceやSmallest Detectable Changeに匹敵する.なにより,標準的な作業療法よりも物理療法を併用した方が即時効果は高く,患者のリハビリテーションに対するモチベーションが高まる.したがって,脳卒中後の手の障害に対する電気刺激療法あるいはロボット療法の併用ならびに作業療法の継続は,維持期の在宅患者でも有用であり,臨床的意義が高いと考える.今後,クロスオーバー比較試験にて効果検証し,適応範囲と優位性を明らかにする必要がある.
【目的】今回,脳卒中後の手の障害に対する在宅での電気刺激療法とロボット療法の効果を検証するためのクロスオーバー比較試験の予備的事例研究において,維持期脳卒中患者の作業療法に電気刺激とロボット支援を併用し,上肢機能が改善した症例を経験したため,その経過と地域・在宅領域の作業療法での物理療法の有用性について報告する.
【方法】本研究は,A-B-C-Aデザインの事例研究である.標準的な作業療法のみ(A1),随意運動介助型機能的電気刺激を加えた作業療法(B),ソフトロボットグローブを用いた作業療法(C),2回目の標準的な作業療法のみ(A2) を行う4期で構成した.作業療法は,週3回の通所リハビリテーションのなかで各期10セッションを実施した.主な訓練内容はアクリルコーンの操作であった.上肢機能評価は,各期の前後に,簡易上肢機能検査 (STEF),Fugl-Meyer Assessment - Upper Extremity (FMA-UE),Motor Activity Log (MAL - Amount of Use [AOU],Quality of Movement [QOM])を行った.日常生活活動評価には,Functional Independence Measure (FIM)とFrenchay Activities Index (FAI)を用いた.
症例は70代・女性(主婦),右小脳出血後42ヶ月が経過し,NIH Stroke Scale 5点,右片麻痺(Brunnstrom stage 上肢5/手指5/下肢4),利き手と歩行に失調症状を認めた(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia [SARA] 10.5点).希望は立位・歩行の安定であり,バランス・歩行訓練も実施した.改訂長谷川式認知症スケール29点,FIM合計114点,FAI 17点であった.
なお,本研究について所属施設長より承認を得た上で実施した.また,本人に対して説明を行い,書面にて同意を得た.
【結果】 A1の前後では,右STEFが73から75点,MAL-AOUが3.2から3.0へ変化したが,MAL-QOMは3.6,FMA-UEは56点から変化しなかった.次いで,BとCの後で,右STEFが80点と83点,FMA-UEが60点と62点,MAL-AOUが3.4と4.0に向上し,MAL-QOMが3.4と3.8に変化した.そして,A2の後でも,右STEFとFMA-UEは得点を維持し,MAL-AOUとMAL-QOMはどちらも4.2へ向上した(A1→, B ↑, C ↑, A2→).また,Cの後からFAIが20点に向上し,A2の後でも維持した.FIM合計は研究期間中に変化なかったが,立位バランスが改善した (SARA 9.5点).
【考察】本研究では,標準的な作業療法に電気刺激とロボットを併用することで,維持期脳卒中患者であっても手の障害を即時的に改善すること,短期の持続効果があることを示唆した.また,FMA-UEとMALの改善度はMinimal Important DifferenceやSmallest Detectable Changeに匹敵する.なにより,標準的な作業療法よりも物理療法を併用した方が即時効果は高く,患者のリハビリテーションに対するモチベーションが高まる.したがって,脳卒中後の手の障害に対する電気刺激療法あるいはロボット療法の併用ならびに作業療法の継続は,維持期の在宅患者でも有用であり,臨床的意義が高いと考える.今後,クロスオーバー比較試験にて効果検証し,適応範囲と優位性を明らかにする必要がある.