[OA-8-4] 肩関節亜脱臼に機能的電気刺激併用下の促通反復療法を実施した一例
【はじめに】片麻痺患者の56.5%に肩関節亜脱臼を認めたと報告がある(田中ら.1987).今回,左被殻出血後重度片麻痺に伴う肩関節亜脱臼に対し,通常訓練に加え機能的電気刺激(以下,FES)併用下の促通反復療法を行い上腕骨頭前方偏位が改善した症例を経験したため報告する.
【倫理的配慮/COI】症例から当院倫理委員会指定文書で同意を得ている.COI関係にある企業等はない.
【症例紹介】70歳代男性.病前は自宅で自立していた.駐車場で倒れ救急搬送となった.診断名は左被殻出血,同日開頭血腫除去術を施行し,第17病日に当院回復期転院となった.入棟時評価はBRS右:2-1-2,FMA:4/66点,表在・深部感覚重度鈍麻,寝返り・起き上がり軽介助,端坐位軽介助,RCPM:16/36点,CBS:24/30点,重度運動性失語,FIM:26/126点(運動17点,認知9点)であった.右半側空間無視と重度感覚障害があり,麻痺側上肢の認識が低下,また弛緩性麻痺で肩関節亜脱臼があり寝返り・起き上がり時に疼痛を誘発していた.
【方法】第17病日より,通常作業療法(40~60分,週6~7回.促通反復療法,振動刺激療法,電気刺激療法,関節可動域運動,ADL訓練,患者指導)を実施した.追加して第106~136病日はフットスイッチによるFES下の肩関節外転促通反復療法(10分,週2回,計8回)を実施した.上肢管理はアームスリングを着用し下衣操作時の上肢巻き込みを予防した.AHIや骨頭下降率に関して,猪飼ら(1992)の報告を参考に計測した.
【経過・結果】第106病日,MAS:大胸筋1+,上腕二頭筋1+,DAS:6/12点(H:1点,L:1点,P:2点,D:2点),AHI:36.8㎜,骨頭下降率:22.44%(上腕骨頭前方偏位著明)でADL拡大に伴い痙縮が増強した.肩関節亜脱臼改善を期待しReoGo®‐Jを検討するも,手掌感覚過敏により実施困難のため,通常作業療法に加えFES下の促通反復療法を開始した.第136病日,FES下の肩関節外転促通反復療法を計8回実施後,MAS:大胸筋1,上腕二頭筋1,DAS:6/12点(H:2点,L:2点,P:1点,D:1点),AHI:35.4㎜,骨頭下降率:36.45であった.画像上前方偏位は通常作業療法実施期間と比較し改善傾向を示し,疼痛も減少した.
第152病日(FES下の促通反復療法介入終了+15病日),MAS:大胸筋1+,上腕二頭筋1,DAS:6/12点(H:2点,L:2点,P:1点,D:1点),AHI:39.1㎜,骨頭下降率:30.86,BRS:2-2-3.FMA:7/66点であった.手関節以遠の中等度感覚鈍麻は残存し,寝返り・端坐位は自立し,麻痺側上肢管理が可能となり,RCPM:24/36点,CBS:7/30点.中等度運動性失語,FIM:84/126点(運動63点,認知21点)となった.通常作業療法のみ行うよりFES下の促通反復療法介入を追加する方がAHIは短縮する結果となったが,介入終了後再びAHIの延長を認めた.上腕骨頭前方偏位改善は維持し,Z+181日に施設退院となった.
【考察】FESは脳卒中後早期に肩関節亜脱臼を予防・軽減するため使用される(Vafadar 2015).今回フットスイッチによるFES併用下の肩関節外転促通反復療法で三角筋や棘上筋の出力が向上し,相反抑制による大胸筋の痙縮緩和が上腕骨前方偏位の改善に繋がったと考える.また,BRS2の症例は立位・歩行訓練が,亜脱臼改善に促進的に働くとされる(田中ら.1989).本追加介入終了後も骨頭下降率に改善が見られたのは,歩行や日常生活で活動量増加し麻痺側上肢連合反応による改善と考える.電気刺激の介入では,短期効果は期待されているが長期効果は確認されておらず麻痺自体の回復が必要である(Vafadar 2015)とされているため予後不良例に対してはアームスリングなど代償手段を維持する必要がある.
【まとめ】重度片麻痺に伴う肩関節亜脱臼に対し,通常訓練に加えFES併用下の促通反復療法を行った結果,上腕骨頭前方偏位に改善が見られた.今後は介入時期をより早期に,密度高く実施し検証したい.
【倫理的配慮/COI】症例から当院倫理委員会指定文書で同意を得ている.COI関係にある企業等はない.
【症例紹介】70歳代男性.病前は自宅で自立していた.駐車場で倒れ救急搬送となった.診断名は左被殻出血,同日開頭血腫除去術を施行し,第17病日に当院回復期転院となった.入棟時評価はBRS右:2-1-2,FMA:4/66点,表在・深部感覚重度鈍麻,寝返り・起き上がり軽介助,端坐位軽介助,RCPM:16/36点,CBS:24/30点,重度運動性失語,FIM:26/126点(運動17点,認知9点)であった.右半側空間無視と重度感覚障害があり,麻痺側上肢の認識が低下,また弛緩性麻痺で肩関節亜脱臼があり寝返り・起き上がり時に疼痛を誘発していた.
【方法】第17病日より,通常作業療法(40~60分,週6~7回.促通反復療法,振動刺激療法,電気刺激療法,関節可動域運動,ADL訓練,患者指導)を実施した.追加して第106~136病日はフットスイッチによるFES下の肩関節外転促通反復療法(10分,週2回,計8回)を実施した.上肢管理はアームスリングを着用し下衣操作時の上肢巻き込みを予防した.AHIや骨頭下降率に関して,猪飼ら(1992)の報告を参考に計測した.
【経過・結果】第106病日,MAS:大胸筋1+,上腕二頭筋1+,DAS:6/12点(H:1点,L:1点,P:2点,D:2点),AHI:36.8㎜,骨頭下降率:22.44%(上腕骨頭前方偏位著明)でADL拡大に伴い痙縮が増強した.肩関節亜脱臼改善を期待しReoGo®‐Jを検討するも,手掌感覚過敏により実施困難のため,通常作業療法に加えFES下の促通反復療法を開始した.第136病日,FES下の肩関節外転促通反復療法を計8回実施後,MAS:大胸筋1,上腕二頭筋1,DAS:6/12点(H:2点,L:2点,P:1点,D:1点),AHI:35.4㎜,骨頭下降率:36.45であった.画像上前方偏位は通常作業療法実施期間と比較し改善傾向を示し,疼痛も減少した.
第152病日(FES下の促通反復療法介入終了+15病日),MAS:大胸筋1+,上腕二頭筋1,DAS:6/12点(H:2点,L:2点,P:1点,D:1点),AHI:39.1㎜,骨頭下降率:30.86,BRS:2-2-3.FMA:7/66点であった.手関節以遠の中等度感覚鈍麻は残存し,寝返り・端坐位は自立し,麻痺側上肢管理が可能となり,RCPM:24/36点,CBS:7/30点.中等度運動性失語,FIM:84/126点(運動63点,認知21点)となった.通常作業療法のみ行うよりFES下の促通反復療法介入を追加する方がAHIは短縮する結果となったが,介入終了後再びAHIの延長を認めた.上腕骨頭前方偏位改善は維持し,Z+181日に施設退院となった.
【考察】FESは脳卒中後早期に肩関節亜脱臼を予防・軽減するため使用される(Vafadar 2015).今回フットスイッチによるFES併用下の肩関節外転促通反復療法で三角筋や棘上筋の出力が向上し,相反抑制による大胸筋の痙縮緩和が上腕骨前方偏位の改善に繋がったと考える.また,BRS2の症例は立位・歩行訓練が,亜脱臼改善に促進的に働くとされる(田中ら.1989).本追加介入終了後も骨頭下降率に改善が見られたのは,歩行や日常生活で活動量増加し麻痺側上肢連合反応による改善と考える.電気刺激の介入では,短期効果は期待されているが長期効果は確認されておらず麻痺自体の回復が必要である(Vafadar 2015)とされているため予後不良例に対してはアームスリングなど代償手段を維持する必要がある.
【まとめ】重度片麻痺に伴う肩関節亜脱臼に対し,通常訓練に加えFES併用下の促通反復療法を行った結果,上腕骨頭前方偏位に改善が見られた.今後は介入時期をより早期に,密度高く実施し検証したい.