第58回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-9] 一般演題:脳血管疾患等 9

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM B会場 (中ホール)

座長:泉 良太(聖隷クリストファー大学 )

[OA-9-2] 頸髄完全損傷者におけるテノデーシスアクションと簡易上肢機能検査STEF総得点の関係

篠塚 裕美1, 大松 聡子2,3, 水谷 とよ江1, 志水 宏太郎3, 河島 則天2,3 (1.国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局 第二自立訓練部, 2.国立障害者リハビリテーションセンター病院 リハビリテーション部再生医療リハビリテーション室, 3.国立障害者リハビリテーションセンター研究所 運動機能系障害研究部)

【はじめに】
頸髄損傷者が物品把持を行うには,手関節背屈動作に伴う動的腱固定による把持動作(テノデーシスアクション)が可能な機能レベル,C6B2(Zancolli分類)以上が必要となる.テノデーシスアクションを用いた代償動作の獲得状態によって,衣服把持の可否など,日常生活動作の獲得状況は大きく異なる.当センターでは,簡易上肢機能検査STEF(以下,STEF)を用いて,様々な形状・性質の物品把持の動作分析を行ってきた.これまでのデータでは,同じZancolli分類C6B2の頸髄損傷者においても,STEFの総得点にはばらつきがあった.先行研究では頸髄損傷四肢麻痺患者の生活の質において母指の位置の重要性が指摘されている(Liechti et al., 2023).そこで,本研究では,テノデーシスアクションの構造・機能差に着目し,手関節の掌屈/背屈時の母指と示指の間の距離とSTEFの総得点との関係性を明らかにすることを試みた.
【方法】
対象は2022年6月〜2023年10月に当センターに入所した頸髄損傷者のうち,一側または両側がZancolli分類C6B2でSTEFを実施した8名,13肢とした.評価項目は,STEFの総得点および,手関節掌屈/背屈時の側方つまみでの接触点を想定し母指指腹中央と示指外側の最短距離(以下,母指-示指間距離)とした.得られたデータから,STEFの総得点と手関節掌屈/背屈時の母指-示指間距離のPearsonの相関係数を算出した.なお,本研究は当センター倫理委員会の承認を得た.
【結果】
STEFの総得点は14.4±11.9点であり,同じZancolli分類C6B2の頸髄損傷者でもばらつきが大きい状態であった.掌屈時の母指-示指間距離は31.6±28.3mm,手関節の背屈時の母指-示指間距離は1.0±6.6 mmであった.STEFの総得点との相関係数は,掌屈時に0.804(p<0.001),背屈時に0.024(p=0.937)であり,背屈時は3肢を除き母指-示指間距離が0㎜で側方つまみ肢位が可能であった.
【考察】
相関解析の結果より,Zancolli分類C6B2の頸髄損傷者では,STEFの総得点と掌屈時の母指-示指間距離が広い症例ほど高得点となることがわかった.これは,物品把持の際に掌屈位で母指と示指の距離を広げることができるほど,把持前に対象物に応じて手の形状を変化し準備するpre-shapingが行いやすいためであると推測される.テノデーシスアクションの構造・機能差に影響する要因は多様だが,手関節掌屈の可動域や,長母指屈筋や母指内転筋の伸長性を保つこと,母指・手指の屈筋群の過度な筋緊張亢進を抑制することで,掌屈時の母指と示指の距離を保つことが可能となると考えられる.また,STEFの総得点と背屈時の母指-示指間距離との関係性はみられなかった.背屈時の母指-示指間距離は,13肢中10肢が0mmであり,特に小さい物品を把持するためには,背屈時に母指と示指の距離を縮めることだけでなく,把持力も重要な要素であるため関連がみられなかったと考えられる.また背屈時に側方つまみ肢位が取れなかった3肢はSTEF総得点が低く,適度な母指屈筋群の伸張が必要であることが示唆された.STEFを用いた頸髄損傷者の上肢運動機能の評価には,総得点だけの評価に留まらず,テノデーシスアクション時の母指との距離など,把持動作の背景にある代償動作戦略を的確に評価し,個々の問題を明確にすることが重要であると考えられた.