第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

脳血管疾患等

[OA-9] 一般演題:脳血管疾患等 9

2024年11月10日(日) 08:30 〜 09:30 B会場 (中ホール)

座長:泉 良太(聖隷クリストファー大学 )

[OA-9-3] 麻痺手使用頻度と意欲の低下を認めた症例に対し,趣味活動導入によりADL改善に繋がった一例

~折り紙とキーボード演奏を通して~

木村 拓貴1, 澤田 泰洋2, 江口 美咲1, 世古 涼也1, 天野 貴之3 (1.名古屋徳洲会総合病院 リハビリテーション科, 2.中部大学 生命健康科学部作業療法学科, 3.名古屋徳洲会総合病院 脳神経外科)

【はじめに】 脳卒中ガイドライン2021では上肢機能障害に対するリハビリテーションとして,麻痺側上肢を強制使用させる訓練やロボットを用いた訓練の有効性が示されている.このように上肢麻痺の改善には「麻痺手の使用・練習量の担保」が重要視されている.また麻痺手の使用の定着には自己効力感が強く関連すると述べられており(Morrisら,2006),対象者にとってやりがいのある課題の提供が必要であるということがわかる.しかし急性期脳卒中患者の回復過程は,麻痺手の使用において誤用や失敗が生じやすい時期であり(廣瀬ら,2019),その失敗体験により使用頻度の低下に至るケースやそれに伴い意欲の低下を認めるケースは少なくない.
 今回,麻痺手の使用時に失敗を繰り返したことで使用頻度や意欲の低下を認めた症例に対して,趣味活動を活かした介入により麻痺手の使用頻度やADLの向上に繋がった症例を経験したため報告する.尚,今回の発表に際し,対象者の同意を得ている.
【症例紹介】 50歳代女性.病前ADL自立.趣味は「折り紙」と「キーボード演奏」であった.X日くも膜下出血を発症,約2週間のHCU管理を経て,X+19日リハビリ室での作業療法開始となった.その時点の上肢Fugl Meyer Assessment(以下FMA)は39/66点.Motor Activity Log(以下MAL)はAmount of Use(以下AOU)1.0,Quality of Movement(以下QOM)1.0と麻痺手の使用頻度は低かった.認知機能に問題はなかったもののネガティブな発言が多く意欲の低下を認めていた.使用頻度の低下やネガティブな発言は,病棟での麻痺手の使用時に失敗を繰り返し,看護師に迷惑をかけたことが要因と考えられた.
【介入方針】 脳卒中リハビリテーションにおいて,「対象者が能動的に治療へ参加するための動機づけ」や「成功体験による自己効力感の向上」の重要性を示した報告は多数みられる.そこで「趣味の折り紙やキーボード演奏がしたい」との本人の発言を考慮し,一般的な上肢機能訓練に加えて,自主訓練で趣味である「折り紙」と「キーボード演奏」を導入した.課題難易度は,うまく手が使えないという失敗体験を避け,初期は成功体験を得るために低く設定した.そして麻痺の回復やモチベーションに応じて難易度の設定を行った.
【結果】 本人が希望する趣味活動を導入したことで麻痺手使用の動機付けとなり,1日0時間だった自主訓練は3時間以上行うようになった.最終評価では上肢FMA 55/66点と運動麻痺は改善,MALはAOU3.9,QOM3.5と向上し,麻痺手の使用頻度や動作の質の向上に繋がった.本人からは「左手でお椀が持てた」「次はこの作品を作りたい」などポジティブな発言も多くなった.折り紙で作品を作ることやキーボードの演奏を聴いてもらうことにやりがいを感じており,意欲の向上も認めた.
【考察】 麻痺手の使用頻度や意欲の向上には,やりがいや楽しみを感じることができる課題の提供やその難易度設定により成功体験を得ることが重要であると考えられる.趣味を取り入れた課題は自発的に麻痺手の使用を促し関心を高め,機能改善のみならず学習性不使用の予防に繋がると述べられている(鳥沢ら,2019).本症例でも,病前から楽しんでいた趣味活動を用いたことにより麻痺手使用の動機づけができた.そして適切な難易度設定から成功体験が得られたことで自己効力感が高まり,麻痺手の使用頻度やADLの向上に繋がったと考えられた.