第58回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OA-9] 一般演題:脳血管疾患等 9

Sun. Nov 10, 2024 8:30 AM - 9:30 AM B会場 (中ホール)

座長:泉 良太(聖隷クリストファー大学 )

[OA-9-4] 脳卒中患者における急性期の作業療法提供量が効率的なADL能力改善に与える影響

荻原 達也1, 野本 正仁1, 石森 卓矢1, 腰塚 洋介1, 美原 盤2 (1.公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院 リハビリテーション部, 2.公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院 脳神経内科)

【はじめに】回復期リハビリテーション(リハ)病棟では,入院基本料の基準要件に実績指数が導入され,効率的にADL能力を改善することが求められている.一般的に,早期のADL獲得には,座位訓練や立位訓練,ADL訓練などを含んだ積極的なリハを,発症後できるだけ早期から行うことが重要である.作業療法(OT)は,ADLなど人々が営む作業に焦点を当て,治療,指導,援助を行い,基本動作能力・応用動作能力・社会適応能力の維持・改善を目標とし,急性期から行われている.しかしながら,脳卒中患者における急性期のOT提供量が,早期のADL改善に関連しているかについて,十分に検討されていない.今回,回復期リハ病棟における脳卒中患者のFIM改善にかかる日数の調査とその要因について,急性期のOT提供量に着目して検討したので報告する.
【対象】平成30年6月以降に当院急性期病棟から当院回復期リハ病棟に入棟し,令和4年3月までに退院した初発の脳卒中片麻痺患者で,回復期リハ病棟入棟時FIMが104点以下であった390名(男性213名,女性177名,年齢74.4±13.6歳)を対象とした.なお,死亡や入院中に状態悪化した患者は除外した.
【方法】週に1度FIM点数を評価し,そのMinimally Clinically Important Difference(MCID)である22点以上の変化があった時点をイベントに設定した.イベントまでの日数を時間変数としてカプランマイヤー分析を行った.次に,説明変数の多重共線性を考慮し,Spearman の順位相関係数を用いてr=0.8 以上の相関係数が高いものを除外し,急性期のOT合計単位数,急性期のOT1日当たりの平均単位数,急性期入棟時FIM合計点数に加え,交絡因子を考慮して先行研究においてFIM改善にかかる日数に影響する因子として報告されている年齢,発症から回復期リハ病棟入棟までの日数,回復期リハ病棟入院時FIM合計点数を説明変数としたCox比例ハザード分析を行い,イベントまでの日数に影響する変数のハザード比(HR)を算出した.なお,説明と同意に関しては,インフォームドコンセントを省略する代わりに,当法人ホームページにて研究情報を公開し,対象者が拒否できる機会を保障し,当法人倫理委員会の承認を受けた(受付番号121-01).
【結果】MCIDに達した患者は227人で,MCIDに達するまでの期間は中央値28日(MIN7日~MAX84日)であった.MCIDに達するまでの期間に影響する因子は,年齢(HR0.98),急性期入棟時FIM合計点数(HR 1.01),急性期のOT1日当たりの平均単位数(HR 1.36)が抽出された(p<0.05).回復期リハ病棟において効率的にADL能力を改善する要因として,年齢はHRが1.0以下であるため,若年の患者,急性期入棟時FIM合計点数と急性期のOT1日当たりの平均単位数はHRが1.0以上であるため,急性期の入棟時のFIMが保たれている患者と1日当たりのOT量を多く提供されている患者が抽出された.
【考察】回復期リハ病棟に転床する脳卒中患者の急性期リハの臨床場面において,高齢で急性期のADL能力の低い患者では,意識レベルの向上や基本動作能力向上を目標にすることが少なくないが,若年で入棟時FIM合計点数が保たれている患者では,これらに加え,早期のADL獲得を目標としている.しかしながら,心身機能の低下や点滴静脈内注射による治療,膀胱留置カテーテルの挿入などにより,ADL獲得に向けた自主的な活動が低下していることが少なくない.それら自主的な活動が困難な患者に対してこそ,ADLに焦点を当て,治療,指導,援助を行うOTを急性期から積極的に実施することが,早期のADL能力改善に重要であると思われる.