第58回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

心大血管疾患

[OB-1] 一般演題:心大血管疾患 1

2024年11月9日(土) 16:50 〜 17:50 F会場 (201・202)

座長:岩元 祐太(鹿児島県立大島病院 リハビリテーション部)

[OB-1-1] 高齢心不全入院患者の再入院に関連する因子の検討—ケースコントロール研究

井上 健太1, 村瀬 瑞希1, 塩田 繁人1, 平田 和彦1, 三上 幸夫2 (1.広島大学病院 診療支援部リハビリテーション部門, 2.広島大学病院 リハビリテーション科)

【はじめに】
心不全は高齢化とともに増え続けており,高齢心不全患者の増悪・再入院予防は喫緊の課題である.高齢心不全患者は疾病の重症度だけでなく併存症や認知機能の低下,フレイル,独居などの複雑な要因を抱えており,治療アドヒアランスの低下,セルフケアの能力の低下,第三者からの支援の必要性が課題となっている.そのため近年では多職種による疾病管理プログラムを推奨されており,患者教育は有効性が示されているがその他の多職種連携の内容に関する報告は少ない.本研究の目的は,当施設での高齢心不全患者の再入院に関連する因子について医学的情報と入院中のリハビリテーション内容,社会的背景,介護保険サービスの利用状況を後方視的に調査するとともに,多職種による疾病管理プログラムの実施が再入院に与える影響を検証することである.
【対象と方法】
研究デザイン:ケースコントロール研究.
対象:2020年4月から2022年3月に当院に入院した75歳以上の心不全患者147例.除外基準:転院・死亡,リハビリテーション治療の実施日数が2日以下の者.
研究方法:症例群を1年以内に再入院した者,対照群を再入院しなかった者とした.後方視的に以下の項目を調査し,両群間を比較した.
調査項目:基本情報(年齢,性別,在院日数,居住形態,要介護度,介護保険サービスの利用状況),医学的要因(NYHA,EF,心不全分類,入退院時血液データ,認知症自立度,MMSE,FAB,Barthel Index,握力,6MD,SPPB),入院中のリハビリテーション治療の内容,多職種による疾病管理プログラムの内容(外来リハビリテーション,患者教育,栄養指導,心不全センター多職種カンファレンス)をカルテより後方視的に調査した.
統計解析:両群間をLog-rank 検定を用いて比較し,p<0.10の項目を説明変数,1年以内の再入院を従属変数としたCox比例ハザード回帰分析を実施.
倫理的配慮:広島大学病院疫学倫理審査委員会の承認を得た.(承認番号:2023-0149)
【結果】解析対象は100例,1年以内の再入院20例(再入院率20.0%)であった.両群間の比較では独居(p=0.017),退院後の訪問看護の導入(p<0.001),認知機能の低下なし(p=0.047),脳血管疾患の併存(p=0.04)が有意に再入院していた.リハビリテーション治療の内容や多職種による疾病管理プログラムに有意差は認められなかった. Cox比例ハザード回帰分析の結果,訪問看護サービス導入(ハザード比:8.4,95%CI:0.04-0.51,p=.004)のみが独立した予測因子であった.
【考察】本研究では独居生活者は再入院が多くなる可能性が示唆される結果となり,先行研究と一致する結果が得られた.退院後に訪問看護を導入した例では再入院が多い結果となり,海外の先行研究とは異なる結果となったが,同県内の心不全患者を対象とした先行研究では同様に訪問看護導入群で再入院が多い結果となっている.この結果には日本と海外の訪問看護の適応や実施内容の差が影響すると考えられる.結果から独居生活者は再入院のリスクが高く適切な個々の生活状況や認知機能に応じた指導や社会資源の利用が求められるが,今回の研究では再入院予防に有効なリハビリテーション治療や多職種による疾病管理プログラムの適応に関しては検証することができなかった.要因として患者教育, 多職種連携カンファレンス,外来リハビリテーションの導入は入院中のリハビリテーション治療と比較し実施した割合が低いことも影響していると考えらえれ,今後の当院での多職種連携プログラムの対象にも検討が必要である.本研究の限界として症例数が少なく単一の施設での後方視的研究であるため,今後は症例数を増やすともに前向き研究により検討を重ねていきたい.